統一球になって、セントラルのホームラン数はどう推移してきたのか
動機
前回の記事ではナゴヤドームへのテラス設置を批判したわけだが、執筆中に標題のことが気になったのでちょっと調べてみた。
なお違反球であった2011と2012は、時系列分析に用いるには不適当なので除外している。
私はドラゴンズウォッチャーであるため(いつか純粋なファンに戻りたい)、私のパシフィックの知識はセントラルに比べて劣る。よってセントラルだけを調べた。パシフィックについての分析は読者に委ねたい。
データソース
ソースはNPBのサイトのデータ(付録参照)を用いた。
なお手作業でエクセルに落とし込んだため、以下の数字に誤りがあれば私の責任である。しかし分析の結論が変わるほどの間違いは無いはずである。
結果
まずセントラル全体のグラフを示す。
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御覧の通り、2013年から2022年までのシーズンにおいて、明確なトレンドは見られないことがわかる。
2015年、2018年、2019年が比較的大きく平均から乖離している。
参考として、チーム別にブレイクダウンしたのが以下のグラフである。
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ここ5年程度の傾向を見ると
タイガース:増加傾向(2022年は減)
ベイスターズ:減少傾向
ジャイアンツ:波はあるものの高位を保つ
カープ:他球団と比べて速い減少傾向
スワローズ:波が大きいものの高位を保つ
ドラゴンズ:緩やかな減少傾向
と言えるだろう。
分析
2013年以降のホームラン数の推移を、個別打者レベル(言い換えればミクロレベル)で説明を試みた。この方針に基づき、ホームラン数に与えた主要な要因をまとめたのが表3である。
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このデータを用いて、各年度の増減要因を要約してみたい。しかし全年度全球団の分析をここに記すのは冗長であるため、前述のように平均との乖離が大きかった2015年・2018年・2019年、及び平均付近に収束した2020年のリーグ全体の数字についてまとめる。
各年について、以下の観点から考察した。
主要打者のセントラルからの離脱
主要打者の調子の波・怪我
主要打者の衰え
新戦力の加入、および若手等のブレイク
なお、「調子の波・怪我」と「衰え」は必ずしも明確に区別できるものではないため、主観的になってしまうことはご容赦いただきたい。いずれにしてもホームラン数の分析には影響しない。
2015年
この年は大きく平均から下振れしている。この年に何があったか。
主要打者のセントラルからの離脱:
前年17本打っていたブランコがバファローズに移籍した。
主要打者の調子の波と怪我:
バレンティンが怪我。これだけで30本減である。
他に目立つのはカープの両外国人である。エルドレッドとロサリオで30本減らしている。
村田とルナがともに9本ずつ減らしている。村田は苦難の年であった。
主要打者の衰え:
和田が11本減らした。和田はこの年をもって引退した。
2018年
この年は大きく平均から上振れしている。この年に何があったか。
新戦力の加入、および若手等のブレイク:
ベイスターズに加入したソトが41本をかっ飛ばした。
また岡本がブレイクしたのがこの年である。
青木がNPBに復帰した。
主要打者の調子の波と怪我:
山田・バレンティン・雄平がホームラン数を増やした。
丸も大幅にホームランを増やした。
一方で、タイガースの若手の前年の輝きが消えた。
2019年
この年も大きく平均から上振れしており、2018年から大きな変化はない。この年に何があったか。
新戦力の加入、および若手等のブレイク:
村上がブレイクした(36本)。
またルーキー近本が9本を打った。
主要打者の調子の波と怪我:
坂本が40本をかっ飛ばした。対前年比22本増である。今のところ、彼のキャリアハイである。
地味ではあるが堂上直倫が12本打ったことも貢献している。前年度0本だった選手である。
筒香と宮崎は21本減らした。
2020年
この年は平均に収束した年である。これは2019年からは大幅に減ったことを意味する。ミクロで見ると、この年は減少イベントが多い年であった。
主要打者のセントラルからの離脱:
筒香がMLBに挑戦すべく海を渡った。
バレンティンがホークスに移籍した。
ゲレーロがジャイアンツを退団した。
バティスタがドーピングにより出場停止・契約解除となった。
主要打者の調子の波と怪我:
坂本が21本減の19本であった。これは不調というよりは、前年が打ちすぎであったと言っていいだろう。
村上が8本減らしたのに加え、山田が23本減らした。山田はここから好不調の波が大きくなる。
ソトが大きく減らした。この年からソトは40本バッターから20本バッターになった。
福留は9本、西川も10本減らした。
ドラゴンズでは福田が13本減、堂上直倫が12本減(0本)となった。福田はここからコンディション不良で苦しい年が続いている。
主要打者の衰え:
ロペスが19本減の12本にとどまり、引退した。
亀井が11本減の2本にとどまった。亀井は翌年引退することとなる。
新戦力の加入、および若手等のブレイク:
タイガースは大山のブレイクとサンズ・ボーアの活躍で、唯一セントラルでホームラン数を増やした。
オースティンが加入し20本を記録した。佐野もブレイクし20本を記録した。
結語
以上の分析から、私の結論は
グラフからは特段のマクロな傾向はみられない
各年の変動は上記のとおり個別打者の状況で説明できる。ここからも何らかのマクロな要因が働いているようには思われない
である。4シーズンをピックアップしたが、他の年度についても、読者において表3と表1とを照らし合わせられたい。
データポイントが少なすぎるので統計学的に強い結論は導くべきではない(導けない)が、あえて「各年度のホームラン数は正規分布に従い、かつi.i.d.である」という仮定を置いた場合、2σを超えるのは2015年だけである。一方7シーズンが1σ以下である。
データポイントが少なすぎるのと面倒臭いことから、Kolmogorov-SmirnovテストやJarque-Beraテスト等の類は行っていない。
ただし、怪我や優秀な新戦力の加入などはランダムなイベントであり、確率的に考えることはおかしくなかろう。
なお、セントラルリーグで広い球場を本拠とするタイガースとドラゴンズであるが、2018年以降ドラゴンズが漸減傾向であるのに対しタイガースは漸増傾向であることは注目に値する(2022年のタイガースの減少は外国人の壊滅的成績)。大山・佐藤輝のブレイクや、近本獲得などが影響している。
この結果は前記事の「球場の広さは言い訳にならない、他に要因がある」という私の意見を補強するものとなった。
付録
チームごとのホームラン数の推移
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