「米軍による富士フイルム地下秘密工場破壊作戦」陰謀論について解説してみる
発端
昨晩の話だがこんなツイートをしたところ、1000以上RTされるなど、ややバズった。
最近、Jアノン界隈で富士フイルムがディープステイトの悪徳企業にされていて、北富士演習場地下に富士フイルムの地下工場があって、そこをトランプ軍がUFO3機等を使って破壊したことになっているんだよな
— dragoner (@dragoner_JP) February 13, 2021
このツイートの話は、先日からJアノン(Qアノンを信じる日本人の俗称)の間で話題になっていたのだが、このツイートの反応を見る限り初耳という人が大半、というかほぼ全てだった。下の画像はこの情報を拡散した人物のFacebook投稿だ。
それなりに知っている人もいると思っていただけにバズリは意外だったが、陰謀論界隈と隔絶されている人が多いのはまあ健全な証なのかもしれない。
しかし、これは陰謀論由来の言説に免疫が無いことも意味するのかもしれない。先の米大統領選挙前後、バイデン陣営による不正選挙などという情報が右派アカウントを中心に流布されたが、これらはアメリカの陰謀論からの伝播だ。一時期、日本で反自民層を中心に「ムサシ陰謀論」(選挙機器メーカーのムサシが、日本の選挙を影で操っているとする陰謀論。これについてはこの記事を参照)が唱えられていたこともあったが、それのアメリカ版に引っかかってしまったのだ。
日本でQアノン信奉者が多いとする海外報道もあるが、どこまでQアノンの論理を受け継いでいるかはかなり濃淡があると感じている。米大統領選挙不正を唱えていたアカウントの多くは、単にリベラル・米民主党への反発から不正選挙論に乗っかってただけで、Qアノン信奉者かと言われると怪しい。
Qアノン、そして日本のJアノンは、過去に存在した様々な陰謀論の集合体となっており、言い換えるならば「間口が広い」。不正選挙論のように、どこかでアノンの落とし穴にハマってしまうか分からない怖さがある。
そこで本稿は、今回話題になった「富士フイルム作戦」を手がかりにして、Qアノン、Jアノンの世界観の一端を明らかにしたい。無意識にハマってしまう人を少しでも減らすための抗体になれば幸いだ。
なお、この記事は有料記事ですが、全部無料で読むことができます。面白かったと思ったり、投げ銭してもいいという方は100円で購入頂ければ嬉しく思います。
なんでトランプが軍を率いているの?
そもそも、もうトランプは大統領じゃないので米軍関係ないやろと思われるかもしれない。が、Jアノンはそんなことお構いなしなのだ。Jアノンの主張では、バイデンは軍を掌握しておらず、予算もなく、ホワイトハウスとされる映像は映画のセットで撮影されているニセモノなのだ。いくらバイデンが国防総省に行こうとも、それはセットで片されてしまう。アポロ計画陰謀論と同じ構図だ。
彼らにとっては米軍は実質「トランプ軍」として機能しており、米軍はディープステイト(世界を裏から支配する闇の勢力)と戦うトランプの尖兵となっているのだ。だから、米軍がヒラリー・クリントンやローマ教皇を逮捕し、グアンタナモ収容所に収容したという言説も平気で出てくる。なお、逮捕されたのにテレビに出ているヒラリーや教皇らは、ゴムの被り物したニセモノかクローンだと説明されている。
なお、Jアノンの間では、トランプと米軍が逮捕する予定である日本人ディープステイトの「粛清リスト」が出回っているが、その中には安倍元総理、森元総理といった政治家(退職者含む)の他、ZOZO創業者の前澤友作、サンリオ創業者の辻信太郎、さらには現上皇陛下も挙げられている。
なんで富士フイルムなの?
Jアノンの間では、富士フイルムはディープステイト企業とされている。富士フイルムが扱っている薬品、「アドレノクロム」がその理由だ。
このアドレノクロム、薬品としては実在するのだが、Qアノンの間ではハリウッドスターといったセレブたちが使う若返り薬とされている。その原料は誘拐されてきた子供たちの脳から採取するのだと主張している。おやおや。
Qアノンにおける敵は、児童性愛者、悪魔崇拝者、人肉嗜好者とされている。トランプ大統領在任時、「アメリカで誘拐された児童がトランプ大統領のイニシアティブで救出された」という趣旨の日本語ツイートが回ってきたことがあるが、かなりQアノンの臭いがした。大統領が警察の個別の捜査案件に介入するとは考えにくく、こういう一見良いニュースも陰謀論が背後にあって注意を要する。
そして、実際に日本でアドレノクロムを扱っている企業のひとつが富士フイルムであり、Jアノンの標的となっている。富士フイルムもとんだとばっちりである。
白ウサギを追え
陰謀論では典型的だが、関係の無いもの、偶然を過剰に結びつける傾向がある。例えば、アドレノクロムが槍玉に上がっている理由の一つに「白ウサギ」が挙げられている。
Qアノンの標語の一つに「白ウサギを追え」というものがある。白ウサギは真実や目覚めを暗喩する言葉で、映画「マトリックス」の冒頭でパソコンの画面に表示された「白ウサギを追え」に主人公ネオが従うことで、世界の真実が明らかになるというストーリーから来ている。
そして、アドレノクロムの構造式がウサギに似ているのだ。これが「白ウサギ」だと。Wikipediaにあるパブリックドメイン画像を、90度傾けたのが下の画像である。
…こんなことが真剣に主張されているのだ。
そして、富士フイルムと北富士演習場を関連付けるのは、米海兵隊公式のTwitterアカウントによる昨年のツイートだ。
Fuji Film
— U.S. Marines (@USMC) June 20, 2020
Marines prepare for a live-fire 61mm mortar range on Combined Arms Training Center Fuji, Japan, during Fuji Viper. The annual exercise sustains individual, platoon and small unit proficiency, and also small unit decision making. pic.twitter.com/ffjra0oqiF
富士の演習場で迫撃砲の訓練をしているだけのツイートなのだが、ここでFuji Filmと書いていることで、富士山周辺の演習場と富士フイルムを関連付けている(まさかと思うなら、このツイートを引用RTしている日本人アカウントを見てみよう)。
なお、米海兵隊アカウントの「Fuji Film」というツイートの真意は不明だが、写真の背景に映っている富士山が霞んでいる(film)のを富士フイルムにかけたシャレじゃないかと個人的には思う。なお、富士フイルムの英語表記は「Fujifilm」であり「Fuji Film」ではない。
ここから、今月上旬から繰り返し発生していた北富士演習場での火災を、トランプ軍による北富士演習場地下の富士フイルム工場破壊とした結果が件のツイートとなっている。なお、ここで自衛隊は悪役になっている説、米軍と自衛隊が共同で作戦にあたったとする説などが存在し、Jアノンの間でも意見が統一されていない。
ところで、北富士演習場は自衛隊の演習場ではあるが、米軍と共同使用されている演習場であり、すぐ近くには海兵隊のキャンプ富士が置かれている。そんな海兵隊が日常的に出入りする空間に、富士フイルムが地下工場を建設し、誘拐してきた子供を監禁していたとするなら、そこに改めて攻め込む米軍というのもマヌケな話に思える。
終わりに
ワケの分からない話の連続だったが、自分でもワケが分からない。そして、これはごく一端でしかないのだ。他にも、イルミナティ、爬虫類型人類(レプティリアン)といったワールドワイドな陰謀論から、日本で見られる李家陰謀論まで、様々な陰謀論やスピリチュアル概念の集合体となっている。
そして、全体像を把握している人間など、Qアノン、Jアノンにもいないので、みんな言っていることがバラバラなのだ。実際にQアノン信奉者にQアノンでよく言われる8つの陰謀論について質問したところ、その大半がその調査で初めて知ったと回答したという(「陰謀論を唱える「Qアノン」の支持者たち、その知られざる実態」)。
よって、ここで取り上げている話も、別のJアノンは真逆のことを言っている可能性もある。そこいらは注意して頂きたい。
なお、実際にこういう陰謀論関連のブログや投稿を見に行くのはオススメしない。雑多で大量の情報がろくに整理されず示されており、大きなストレスとなる。まず、『パラノイア合衆国』あたりを読んで、頭がパンクしそうにならなかったら挑んでみるのをオススメする。ミイラ取りがミイラにならないようにね。
※2/14 23:40追記
書き忘れてたけど、去年もJアノン界隈で、トランプ大統領の密命で米軍が東京地下要塞を攻撃して、ディープステイトの人食いの拠点であるディズニーランドやこどもの国から囚われた子供を解放したが、オリハルコン製の潜水艦で龍型宇宙人(ドラコニアン)が紀伊半島に逃げた話が拡散されてました。
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