DJI 新型ドローン MATRICE 300 RTK で変わる業務とシゴト文化

2020年5月7日にドローンメーカー王者 DJIから究極の業務モデルが発表された。
発売も5月中旬ごろと言うスピード感。
MATRICE(マトリス)シリーズはあまり一般の人の眼には触れない業務用で、特に点検や調査などにフォーカスを絞った機種。
今まで200シリーズの改良を数回行われていたが、今回はフルモデルチェンジで、モデルの数字も200から300へとアップグレードされた。
業務用ドローンのスペックを列挙しても、どう役立つのかが分かりにくいので、機能ごとにどんな仕事に効果的なのかを探ってみたい。

機体に搭載できるセンサーセレクトで業務目的に合わせる

コンシューマー向けのドローンはカメラが標準装備され、空撮や写真を利用した仕事が主だが、業務用は機体本来の性能や機能とは別に、作業目的に応じたカメラやセンサーを搭載して使用する前提で設計されている。
そのため、一般では何に使うかわかりにくいセンサーもサードパーティーから販売されたり、DJIからも複数のカメラやセンサーを一体にしたシステムもZenmuse H20シリーズとして同時にリリースされた。

機体性能のカギは飛行時間55分

MATRICE 200シリーズでは最大飛行時間38分。以前は30分間を超えた飛行は難しいとされていたのでリリース時はその飛行時間の長さも特徴の一つだったが、MATRICE 300 RTKの飛行時間は約1.45倍の55分間だ。
飛行時間が伸びるとともに、ドローンの可用範囲も広がる。
例えば、大規模のプラントや高圧送電線の点検ではフライト時間は大きな意味を持っているからだ。

8km先まで飛べるメリット

米国をはじめとする諸外国では利用できる電波の周波数帯によって13kmまで電波が届く。日本では8kmだが、東京駅から新宿駅までの直線距離で約6km、感覚的にはかなりの距離まで操縦可能なのだ。
これなら大型コンビナートでも大規模プラントでも、離陸ポイント一カ所でこなせる作業が増えるだろう。さらに送電線の点検時間も大幅に削減できるだろう。

AI スポットチェックは人を超えた

主に動画コンテンツなどの空撮では、飛行や撮影アングルの再現性はそれほど要求されない。
逆に業務点検では、経年・経時変化を定量的に把握したいので、出来るだけ対象物を同じ角度、同じ画角で撮影・記録したい。
変化量を測定し、適切なメンテナンス等を行う為だ。
この機能は精度にもよるが、収集した写真データをAI学習させる事で、人が気付きにくい重要な変化点も抽出できるのではないだろうか。
コンクリート建造物のひび割れ予測、工場の屋根、送電線鉄塔の碍子の損傷確認、風力発電ブレード点検などには大きく役立つだろう。

高解像度グリッド撮影でカンも不要に

写真による点検作業の不満は、撮影写真を拡大しても、本来現場で作業者が見ていた細かいディテールが見えない点。
高解像度グリッド撮影は、対象物を分割して撮影することで細かなディテールを可能な限り再現できるようにした。
これにラップ撮影(写真を重ねた撮影)が機能としてあれば、三次元点群データ生成も可能になり、経時変化による劣化確認や機能耐用年数などの製品基本設計の大切なデータ収集にも役立てられるだろう。

Waypoint 2.0 で6万5千超の飛行ポイントで正確無比な再現性を手に入れた

業務作業においてWaypoint(ウェイポイント)は重要な機能の一つ。
今回大幅にポイント数(飛行経過点)が6万5千超になったことで、MATRICE300の主要な作業は自動化された。
ウェイポイントは指定した座標上で、機体の高度や向き、カメラアングルを指定できる機能。ドローンの操縦が主でない作業者でも、毎回同じ経路を飛行できるので負担が軽減された上に、長距離の自動飛行も可能になったと考えられる。

進化した安全性能で操縦も安心

6方向検知+最大40m先までの障害物を把握できるので、操縦者としては大きな安心を手に入れられた。技術的にはカメラセンサーで障害物回避を実現した点がDJIの開発・応用力の秀でたところだろう。

操縦士がバトンタッチ、デュアルオペレーティングで長距離飛行

飛行可能距離(信号伝送距離)が8kmだが、デュアルオぺレーティング機能がその距離を克服できる。
距離の離れた複数の操縦士が、操縦権限をバトンタッチすることで飛行時間の限り長距離のフライトを実現できる。
極端だが、東京駅から代々木体育館までは一人目の操縦士、代々木体育館から二人目の操縦士に替わり、高井戸インターや荻窪まで飛行が出来る。
これを1フライトで継続すれば、単純計算で56km先まで航続可能だ。
*MATRICE300 RTKはPモードで17m/s(時速61.2km)

バッテリーホットスワップがドローンにも

着陸の度に行うバッテリー交換は機体電源を必ず切っていた。
デュアルバッテリーだろうが、6バッテリーだろうがそうせざるを得なかった。
MATRICE300 RTKの画期的な点は、デュアルバッテリーを活かしてホットスワップを実現したことでもある。
ホットスワップはデータサーバーなどに備わっている基本的な機能で、電源冗長化などとも言われている。
バッテリー交換によるダウンタイムをゼロにしたことで、作業効率が一気に改善された。
デュアルフライトとホットスワップ機能を併用すれば、今まで1対1の空輸概念が変わるだろうし、何より大規模かつ長距離の高圧電線鉄塔の耐張間測定なども同日中に作業を行えるだろう。

ピンポイント機能+FlightHUBでデータ共有

フライト中にマーキングしたいポイントをタップするだけで、位置情報を記憶し、DJIが提供している特定エリアのフライト統合管理システム FlightHUBを使用すれば、データ共有も可能になった。
災害救助や中規模以上の火災現場でも利用が出来るかもしれない。

さて、今回は知る機会が少ない業務用ドローンのニューモデル「MATRICE300 RTK」の機能と役割について書かせていただきました。
業務経験や幅広い技術的な知見が必要なので、その具体的な利用用途やその価値などに触れるには、一般的なドローン情報サイトやメディアの情報では不足かなと感じたので、書き起こしてみました。


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