酒と女にのまれる日々
無事、今朝を迎えた。
禁煙を始めた18年前の晩、夜中に喉の渇きを覚えて何度も起きてはコップ一杯の水を飲み、またベッドに戻るというような禁断症状など一切ない爽やかな朝を迎えた。
飲んだ晩は早寝。21時には酩酊状態で寝入っては、2時間後に起きて水を飲み、トイレに行き、また眠る。そのサイクルが朝まで続く、完全に狂った睡眠サイクル。
今日は自然に目が覚めた。ビバさかだち。
酒に酔うと驚くようなシーンに直面する。それは僕が主人公だったり、傍にいるエキストラだったりだが、白昼ならどうにも起こりえない低俗ドラマのワンシーンが週一で繰り広げられる。
バブルも9合目を過ぎる頃、日本の大人たちが踊り続けたディスコの帰りを毎晩味わっていた頃、冬の遊びといえばクリスマスイブに予約した苗場プリンスホテルで君のシュプールに乾杯することで有名なスキーだ。
そうスキーさえ上手ければ何をやっても一目置かれた時代。
僕はまだ頭の悪い大学生で、田舎で当時流行っていたバーボンを揃えた、大正洋風居酒屋のカウンターで、学生という理由で一晩500円で週二回は飲ませて貰っていた。
田舎じゃ全然モテない冴えない田舎の大学生。
でも、僕には誰もが後光が差した仏様を見るように崇められる地位を確立していた。
イントラ。そう、スキーインストラクターだ。
スキーさえ上手ければ貧乏学生だって、酒代はどんなに高級バーボンを飲んだって500円ポッキリ。
そう、スキーが上手いというだけで年上の女性が東京からわざわざ遊びに来る。目的は「イントラ」の僕だ。
関東のラストフロンティア的ド田舎群馬県桐生市に、3時間かけて浅草発急行りょうもう号で来る。
バブル期の二大女性ブランド、OLと女子大生が来る。
大妻女子大というブランド女子大の年上女子大生が来ては誕生日のプレゼントに、とんでもない金額のAVIREXの入手不可の革製のB3を田舎の学生にサラッとプレゼントしちゃう。スキーってマジックなんだ、バブルって凄いんだ。
着心地の悪い実際全く似合っていない総皮革のB3を来て、いつもの居酒屋で堂々と500円でバーボンを煽っていると、居酒屋オーナーがスキーに行こう、今から竜にスキーを教えて貰おうと呂律の回らない酒臭い口で言い続け、なんだかわからないうちに初めて買って貰った中古のISUZUピアッツァの鍵を奪われ、僕は助手席に突っ込まれてオーナーは田舎のメインストリートをフルスロットルで駆け抜けようとした。
セコンドギアに入れクラッチを繋いでフルスロットル手前、軋んだ大砲のような音と衝撃と共にピアッツァは止まる。
酔っ払い運転で事故。
ぶつけた車は68年製BMW。友達の車だ。
なんだかわからないまま、朝を迎え、オーナーと一緒に僕の実家に行ってなぜか実の親に僕も謝る。
酒を飲むと人が変わる。酒で人の精神力がもろくも崩れては瞬時に復活する。
ジョージ・オーウェルの悪夢は現実だったのかもしれない。
新潟の爽やかな朝を家族と迎えた朝食は、グルテンアレルギーの僕にとって悪夢のようなオールグルテンバフィ(ビュッフェ)だった。
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