漆の木
「ハジキ」とか「ハジメ」とか言ってたね。触ったら顔中がかぶれて痒くてたまらんかった。なかにはこの真っ赤に染まったハジキの葉を見るだけでかぶれてしまう敏感な少年もいた。そしてそのかぶれは他の少年たちにも伝染するんだから、まさに悪魔の木だった。今でも触るのはちょっと怖い。
でもこの悪魔から毒をもらい何回もかぶれていくうちに、いつしか少年たちの体には自ら解毒剤ができあがり免疫力がついて頑丈な身体と精神力が養われていた。バイ菌だらけの泥水を浴び、トイレの後は手洗いなんかしないで給食を食べていた。そして教室の床に落とした給食のパンを埃も落とさず食べていた(ただの不衛生とも言うが)。そうやってバイ菌だらけの世界で少年たちは強くなっていった。
強制的にマスクを付けさせられ、そしてそれが当たりまえになった今の少年たちは、いったいどんな大人になっていくんだろう。人との距離感の分からない少年たちは、いったいどんな世界を生きていくんだろう。
車中ひとりなのにマスクをしているバカな大人もいれば、お前はなぜマスクをしないのかと怒る愚か者もいる。そういう者に限ってGoToなんちゃらで浮かれたたようにあちこちで細菌を撒き散らしてきた。
悪いのはコロナでも政府のデタラメな政策でもなく、情報に踊らされている自分自身だということにいつ気が付くのだろうか。バイ菌だらけの中のあの時の少年が、情報だらけの今の大人たちをあざ笑っている。