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【教科書ボクシング】お手本にするなら…井岡?井上?寺地?

よく試合解説で「教科書のようなボクシング」とか「初心者がお手本にすべきボクシング」なんて例えがありますね。

おそらく、ガードがしっかりしていて、ジャブから組み立てていて、ワンツーのフォームが綺麗なボクサー、なんてイメージでしょう。

加えて試合ぶりも紳士的で、ボクシングへの取り組み方もいたって真面目なタイプなんじゃないかと思います。

私のイメージで言うと、その筆頭はリカルド・ロペスですね。

ガード、ディフェンス意識、フットワーク、距離感、コンビネーション、フォームなどなど、本当にお手本にすべき要素だらけです。

ただ、彼の場合はパンチの打ち抜きやフェイント&カウンター技術が異常なので、お手本にできる部分とそうでない部分が同居していますね。

現役の日本人ボクサーにおいてはどうでしょうか?

井上尚弥、井岡一翔、寺地拳四朗

今をときめくこの3人は、違いはあれど、まさに攻防兼備の正統派スタイルと言えるでしょう。

彼らに憧れ、参考にするボクサーは多いと思いますが、この3人にも「お手本にできる部分」と「したくても到底できない」部分があります。

今回はそのあたりを考えていきたいと思います。


  1. 驚異的フィジカルに支えられた井上のシンプルさ

  2. ガード意識とプライドに支えられた井岡の確実性

  3. フットワークと距離感に支えられた寺地のジャブ

  4. 三者に共通する「バックステップ」の巧さ


1.驚異的フィジカルに支えられた井上のシンプルさ


井上尚弥の練習シーンで、ジャブやワンツーを丹念に確かめながら、シャドーやバッグ打ちをしているシーンを見たことがあると思います。

パンチの軌道やスピード、引き、足の位置などを確認しながら、丁寧に反復しているような印象です。

PFP王者が行なう練習としては、とても基本的でシンプルな気がしますが、彼はそれが一番大事だと知っているのですね。

シンプルな基礎動作を、確実に、一番の武器にしている。それが井上尚弥の最大の強みじゃないでしょうか。

特に、強いジャブを一発一発バッグに打ち込む練習は、メイウェザーもやってました。

この基本に根差した練習法や姿勢はぜひ初心者も見習うべきでしょう。

ただ、井上の場合、そのシンプルなスタイルに異常なほどのパワー&スピードが加わるために、真似できるようで出来ない部分が大いにあります。

もちろん、さまざまなテクニックやボクシングIQの高さも彼の強みです。

もし、パンチ力やスピードのないボクサーがそのまま井上の真似をしたとしても、なかなか彼のように勝てるものではないと思います。

ちなみに、井上尚弥のパンチ力の秘密は、相手の急所に直角にパンチを当てていくカンの良さと、体の力を拳に伝える伝統率の高さだと、元スパーリングパートーナーの黒田雅之が言ってました。そのあたりのセンスもなかなか真似できるものじゃないですね。

2.ガード意識とプライドに支えられた井岡の確実性

そして井岡。

テクニシャンという文脈では、歴代日本王者の中でも屈指の存在だと思います。

井上のような脅威的フィジカルに恵まれているわけではありませんが、「己をとことん知っている」という点で彼は強いです。

己の力を客観視しているからこそ、相手の力と冷静に比較することができる。その上で、勝つための戦略性や対応力に長けている。

そして、秘めた強い自尊心(プライド)があるからこそ、負けないためのスタイルを徹底できる。ここはロペスやメイウェザーと似ているところです。

いいとこ見せようとして、決してリスクは取らないのです。

スタイル的にはまずディフェンス先行型で、ガード、ブロッキング、前後左右のボディムーブに優れています。

このディフェンスの確実性は初心者も見習えるポイントです。

特筆すべきは、スウェーやダッキング、あるいは左フックの相打ちでも右ガードを外さない徹底ぶり。

これはなかなかできることじゃありません。鬼のような反復練習と高い意識の賜物だと思います。

さらに、忍者のようなすり足ステップも特徴です。

細かく、速く、繊細で、臨機応変。

必要最低限の動きでパンチを外し、ジャブで空間を支配し、自分の距離を作る。

相手からしてみると「ボクシングをさせてもらえない」と感じさせる、イヤ〜な戦い方だと思います。

井岡一翔のガード、ディフェンス意識、ジャブ、ブレない軸、コンパクトなコンビネーション

フィジカルに自信のない初心者が参考にするのには、最も最適なスタイルだと思います。

しかし、最近では加齢とともにディフェンスの精度やスピードが落ちているようなので、大晦日の統一戦が正念場かもしれませんね。


3.フットワークと距離感に支えられた寺地のジャブ

そして、京口戦で再び株を上げた寺地。

彼もまた教科書的な、ディフェンス意識の強い、相手にボクシングをさせないような攻防兼備のスタイルを持っていますが、今回の3人の中では一番真似しにくいのではないかと思います。

なぜなら彼のボクシングは「脱力」のセンスから生まれているからです。

どのスポーツも、特に格闘技ではいかに脱力するかはキモだと言われますが、人を殴り倒す目的のあるボクシングでは「脱力」は非常に難しいポイントです。

寺地のパンチの打ち出し(起こり)が非常にわかりにくいのは、以前の記事でも言及しましたが、
>>【武道×ボクシング】打ち出しの気配を消す寺地の世界有数テクニック
ここはまさしく構えの脱力(とそこからのスナップ)から生まれています。

そして、彼の最大の武器である距離感の良さも「脱力」の賜物です。

四肢を脱力すると、自然と力は体幹(センター)に集まります。
逆に言えば、ヘソ下の丹田に力を込めると、四肢は脱力していくのです。

その時、姿勢は直立し、重心はど真ん中。
前後左右、どこにでも臨機応変に移動できるバランスが作られます。

寺地のバランスを見れば、常にセンター、姿勢はアップライトで、姿勢を保ったまま前後左右にチョコマカと移動します。
まるで、キャスター付きの椅子のようにスイスイと水平移動し、磁石のマイナス同士のように一定距離を保ち、移動砲台のようにジャブや右を発射していきます。

これがなかなか真似できるものではないし、トレーニングでどうにかできるものでもないと思います。
自らの活かし方を考えた末の徹底意識、そして持って生まれたセンスの賜物。
そう、脱力はセンスと運動神経だと思うのです。

逆に、初心者は余計なところに力が入りやすいです。
よく「もっと肩の力を抜け!」とトレーナーの声が飛びますが、なかなか寺地のような完全脱力の域まで達するボクサーはいません。
歴代チャンプで言うと、徳山昌守が同じようなセンター重心のボクサーだったでしょうか。海外ではドネアですね。
古いところで言うと、柴田国明やガッツ石松も良い脱力をしています。南米の強豪との試合が多かったので、そういうところから盗んだのでしょうか。

マスターするには難しい。が、寺地の「脱力」攻防スタイルは、ぜひ初心者も真似るべき!

そうすれば、もっとラクに自分のペースで試合が作れると思います。


4.三者に共通する「バックステップ」の巧さ

そして、三者に共通するのは「バックステップ」の巧さだと思います。
相手のパンチよりも速く細かく、臨機応変で、即座に攻撃へつながるバランス感。

私の印象では、2000年代に入ってからのボクサーは総じてバックステップが巧いです。
徳山のセンター重心のバックステップ、長谷川の躍動感のあるバックステップ、西岡や内山のベタ足ながらも細かく刻むバックステップ。

バックステップで相手の出足をそぎ、自分の距離感とリズムを作っています。
大橋会長も井上尚弥の特徴として、バックステップの速さをあげていました。

おそらく、昭和のボクサーは「前へ前へ」の指導や意識が強すぎたんだと思います(それが逆に魅力でしたが)。

それが、アマチュア経験者のプロ転向が増え、指導者のレベルがあがり、バックステップが「逃げ」や「弱さ」とされなくなってきた。

確実性の高いディフェンス技術は、
距離

ガード

パーリング&ブロッキング

ウェービング&ダッキング

スウェー&スリッピング
の順にあると言われます。

バックステップは、確実性の高いディフェンスにつながり、自分の距離とリズムを作り、効率的に攻撃に繋がるテクニックです。

とは言え、ただ下がればいいわけじゃない。
攻撃に繋がらないバックステップは意味がありません。

跳ねるステップ、すり足での刻み、サイドステップやスウェーとの組み合わせ。リズム、タイミング、歩幅。カウンターとの複合技。
もちろん相当な走り込みや下半身強化が必要になります。

もっともっとバックステップ探求して、この三者の強さの奥義に気づいてほしいと思います!



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