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ファンタジーは子どもの心を強くする

あなたは、何歳までサンタクロースを信じていましたか?

そう聞かれて、サンタクロースは親だとわかった瞬間を明確に覚えている人もいれば、そうでない人もいるだろう。

私の友人は、小学1年生までアメリカで暮らし、日本に戻ってきて空港に着いた瞬間に、突然、親に「サンタクロースはいないのよ。あれはママとパパよ」と耳打ちされたという。
きっとクリスマス間近だったのだろう。日本の学校で浮いてしまう可能性の高い、想像力豊かな娘を案じて「サンタを信じているなんて言ったら、いじめられるかもしれない!」と突如として告げたらしい。
それを聞いた瞬間、彼女はショックで目の前が真っ暗になり、以後しばらく、カラフルだった彼女の世界は白黒になった。

私の場合、サンタクロースが親だと気づいた明確な出来事はないが、小学3年生の時には親にねだって自分でほしいものを買いに行った記憶があるから、その頃には完全にわかっていたはずだ。

ただ、今でも鮮やかによみがえるクリスマスの思い出が一つある。

小学1年生の時だ。
今夜はサンタさんが来るんだ!ちゃんとほしいものを持ってきてくれるかなぁ。と、パーティー用の三角帽子をかぶり、胸躍らせながら食卓に座ると、父が私と妹へのプレゼントを抱えて帰ってきた。

「え?」私はびっくりして父に駆け寄った。
「なんでお父さんがプレゼント持ってるの!?」
「駅からの帰り道で、サンタさんに声をかけられてね。これを千代と香代に渡してくれって言われたんだよ」
「えー!!! すごい!!! お父さん、サンタさんに会ったの!!!?」私は大興奮。
「うん。そうだよ。他の人に見られないように、内緒で渡されたんだ」

父を大尊敬した。
「サンタさんはどんな人だった?」「優しかった?」父に聞きながら、ありありと思い浮かべたシーンは、今でもはっきりと思い出せる。
ビルとビルの隙間に隠れながら、父を手招きし、こっそりプレゼントを渡すサンタと、それを大事に受け取る父―。
夢のような、まばゆい記憶だ。

今となれば、大きなプレゼントを隠す手間や、子どもが寝てから枕元に置く手間を省きつつ、子どもの夢は壊したくないという、大人の事情がわかってしまうわけだが、それでも、あの時の興奮と高揚は私の中に確実に残っているのだから、父の作戦は思った以上に功を奏したわけだ。

私も親になって、今年で12回目のクリスマス。
全く違う話をしていた時に、娘に不意を突かれた。

「○○ちゃんが、サンタは親だって言ってた!」

焦る私。もう、6年生だもんね、どうする?言う?言っちゃう?自問自答した末に
「そっかぁ。サンタさんを信じていない場合、サンタさんはその子の家に行かれないからねぇ。だから代わりに親がプレゼントをあげるんじゃない?」 

ああ……やっぱり言えない。言えなかった。娘だってわかっているだろうに。
なんだかお互い、うっすらにやけながら、ここで会話は終わった。

わかっていながら、お互いズバッと認めないのはなぜだろう―

あらためて考えると、毎年バタバタとプレゼントを間に合わせているが、そんな中でも「サンタからの手紙」は必ず書くようにしている。
「サンタさんへの手紙」に返事がないんじゃつまらないわよね、と思ったのがきっかけだった。

娘が小学3年生の時の「サンタさんへの手紙」には、欲しいプレゼントと一緒にこう書かれていた。

願えてほしいことは、友人かんけいです。

それ以上の詳しい内容は書かれていなかったし、「叶えてほしいこと、ね」と、幼い間違いを可愛いなと思ったくらいで、深刻にはとらえていなかった……のだけれど……。そういえば、娘が4年生の時に話してくれたことがある―

3年生のクラスでは女の子3人で仲良しだったが、そのうちの一人が特定の子と特別に仲良くしたいタイプで「もう一人の子とは遊ばないで」と言われた。言う通りにしなかったら、自分が仲間はずれにされた。
それからは、誰か一人とべったり仲良くするよりも、色んな子と仲良くするようにしたら、その子ともうまくやれるようになった、と。そして「その時は辛かったけど」と言った。

手紙に書いてあったのは、そのことかもしれない。
そうならば……サンタの返事が気になる!  
娘が保管している「サンタからの手紙」をそっと読み返した。

一年間、頑張ったことや楽しかったことを見ていたよ、という内容の後に、こう書かれていた(娘の名前は仮名)。

しおんちゃんの心の中はどうかな?ときどき、さみしくなったり、悲しくなったりすることもあるようだね。そんなときも、しおんちゃんは一人じゃないよ。知っているよね。
がまんしなくていい。泣きたいときは泣いて、楽しいこと、うれしいこと、色んな気持ちを感じることが、しおんちゃんをますます美しく、強くするよ。いつも、見守っているからね。
Merry Christmas! そしてまた素敵な1年を―

こんな返事を書いたことは、すっかり、すっからかんに忘れていた。けれど、もしかしたら、きっと、サンタの存在も娘の力になったのではないかと、思う。

つい最近、子育てに関する対話をしよう!というFacebookグループに、こんな問いが投げかけられた。

みなさんは「クリスマスプレゼント」ってどうしてますか?
サンタが持ってきてる?
サンタじゃなく親としてあげてる?
そもそもクリスマスに何もしてない?
僕、子どもが産まれる時に「サンタ制度」について真剣に悩んだんですよね……

その問いに、様々な返事があった。家庭の数だけ「サンタ制度」がある。
迷いながら、挫折しそうになりながら、サンタというファンタジーの世界を守ろうとする大人たちの愛と勇気。涙あり、笑いありのさまざまな物語が浮かんで見えた。

ファンタジーには、子どもの心を強くする力があるのだと思う。
大人になっても、壁にぶつかった時、その力を発揮する。
今、目の前に見えている世界だけがすべてではない。想像の翼を広げてどこへでも行かれるし、その翼が、君たちを守り、助け、新しい世界を創り出す力にもなってくれる―
それを知っているから、大人たちはついつい、懸命になるのかもしれない。

やっぱり今年も、私は娘に言った。
「サンタさんに手紙書きなよ。ギリギリだとサンタさんも困っちゃうよ」
「うん、書く!クッキーとミルクも用意する」上機嫌な声が返ってきた。

大人になると、サンタクロースからプレゼントをもらえない代わりに、自分がサンタになるという幸福をもらえる。プレゼントを見つけた時の娘の顔を思い浮かべながら食べる、夜中のクッキーは格別においしいのだ。

あなたの心にも、サンタクロースはいますか?

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