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第16話 盛岡冷麺について〜ソウルフードとは何者か?【下書き再生第二工場】

 小西課長から同期の佐々木と一緒に案件を進めるようにという指示があったのが二ヶ月前のことだ。ところが佐々木とは衝突ばかりして仕事は全く進捗していないどころかこのままでは同じチームのみんなにも迷惑をかけてしまいかねない状況に陥っていた。

 「野村と佐々木、今夜飯でも食いに行こう」

 ミーティングが終わったあとで小西課長から声をかけられた。チームの皆にも迷惑がかかるだけではなくこのままでは僕の評価だって危うい。小西課長にも影響が及ぶだろうと考えると憂鬱でもあり、何より佐々木のことが恨めしかった。

 仕事を終えてから僕達が向かったのは冷麺の店だった。居酒屋か何処かの飲み屋に行くものとばかり思っていたから思わず拍子抜けした。

 テーブルにつくと小西課長が言った。

 「盛岡冷麺って言うんだ。お前ら知ってるか」

 僕も佐々木も知らなかった。

 「まあ食ってみろ」

 小西課長に言われるまま、運ばれてきた目の前の冷麺に箸をつけた。

 「キムチがのっているんですね」

 佐々木が興味深そうに冷麺に箸をつけた。

 僕も冷麺を口に運んだ。

 「麺が硬いですね。というか歯ごたえが凄い」

 スープの味もさっぱりとしているようで旨味がある。そして少しピリ辛なのがよい。

 「どうだ野村、佐々木。美味いか」

 小西課長の問いかけに僕も佐々木も頷いた。

 「美味しいです」

 小西課長が僕達をみた。

 「盛岡冷麺っていうのは北朝鮮のそれぞれ別の地方に伝わる冷麺を盛岡におられた在日朝鮮人の方が融合させて作り上げたんだ」

 僕はなんとなく小西課長が言いたいことが分かったような気がした。

 「違うものを掛け合わせると1✕1が2ではなく4にも8にもなることがあるということだ」

 1✕1は2じゃないし1には何をかけても1にしかならないというツッコミはしないことにした。

 「いいか、野村も佐々木もそういうことだ。上手く溶け合え。時として反目しながらもふたりの中に隠れている大事なヒントを互いに引き出せ」

 「違う意見のぶつかり合いからこそ良いものが生まれるんだ。なあなあからじゃ素晴らしいものは生まれないんだよ、いいな」

 佐々木が神妙な顔をしながら小西課長の話を聞いていた。僕も佐々木に対して我を張りすぎていたかもしれないと思った。きっと佐々木の意見に折れるのは負けだと思っていたのだろう。

 同期だからといって出世争いだとかその為にどちらが先に手柄を立てるか、なんていうことで反目し合うのはやめにしよう。

 「盛岡冷麺は盛岡のソウルフードだ。ソウルフードが分かるか」

 僕はピンとこなかった。佐々木もどうやら分からないらしい。

 「地元のひとたちの愛情。想いがこもった料理だよ」

 佐々木が答えた。

 「そうか、北朝鮮だけにソウルなんですね」

 「そうだ。北朝鮮だからソウルなんだよ」

 ソウルは韓国だよな。でももしかしたら二人共ボケてるのかもしれない。ツッコむのは野暮だと思い口をつぐんだ。

 「そういえば二課の岡田さんってキム・ジョンウンに似てますよね」

 そう言って佐々木が笑った。

 「そういえばそうだな。いまからアイツのことを総書記と呼ぼう」

 小西課長も僕も笑った。

 僕達は心の底から笑い合った。佐々木のほうを向いたら目があった。佐々木の目が明日から頑張ろうぜと言っているような気がした。

 「よし、いまからキャバクラだ」

 よっしゃ!キャバクラだ。

 たのむ!と土下座せんばかりにお願いしたら断り切れずに太ももを触らせてくれるゆるゆるな優希ちゃんを今夜も指名するぞ。

 すっかり心が弾んでしまったせいで課長の話と森岡製麺のことは完全に忘れた。

 

#下書き再生工場

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