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第17話 ゆるくスポーツに向き合ったっていいじゃないか【下書き再生第二工場】

 うさこはスポーツが嫌いだ。幼少の頃からずっと嫌いである。うさこは運動神経が悪い。縄跳びも出来なければスキップすらも出来ない。ましてや球技なんて当然出来るわけが無い。だから体育の時間はうさこにとっては地獄であった。

 子供は運動でも勉強でも、出来ない人間に対して容赦がない。

 うさこは辛うじて勉強は出来たがスポーツはからきし駄目なせいで仲間はずれにされるどころかいじめられることもあった。ドッジボールなんかに混ぜられてしまった日にはなぶり殺しのような目にあった。こうしてうさこの運動嫌いはナガシマスパーランドの日本一高い落下点から滑り落ちるウォータースライダーのようにヤバっ、死ぬんちゃうかマジで、という勢いで加速していくわけである。

 中学生になるとスポーツ嫌いの傾向にさらに拍車がかかった。スポーツとは集団への帰属意識を要求し、ときには強要してくる場合がある。そして結果を残せない人間にたいする寛容さがないことがままある。不運なことにうさこの周りにはそういうスポーツマンが多かった。

 そんなうさこは日本のスポーツ界に革命を起こすと決意した。言うなればスポーツへの復讐である。

 そして大人になりあの手この手で衆議院議員となったうさこはありとあらゆる手段を用いてスポーツ庁の長官に就任したのである。

 スポーツ庁長官の就任あいさつでのうさこの宣言に周囲の人間はみな腰を抜かした。

 「スポーツ界を叩き壊す」

 なんとスポーツ庁長官のくせにそんな大胆かつ無謀な大風呂敷を拡げたうさこ長官に対する反発はとても激しいものであった。

 「抵抗勢力をぶっ潰す」

 そんなキャッチフレーズを掲げたうさこ長官は日本中のスポハラ指導者だけではなく健全なアスリートたちをも迫害しようと動き始めた。

 そんなうさこ長官がまず目をつけたのが全国高等学校野球選手権こと即ち高校野球の改革である。

 うさこは次のような改革案を掲げ、それが再び周囲からの猛反発を招いた。

 ・甲子園を空調完備のドーム球場にする ・試合の途中でも疲れたらやめる ・勝ち負けはつけない ・勝っても負けても生きているだけで優勝

 当然誰しもが猛反発である。だがうさこ長官はそんな声にも負けず、自分に逆らう人間を容赦なく次々と粛清していった。

 そして周りをイエスマンと太鼓持ちで固めたうさこ長官の下、高野連は解体され新しい組織に生まれ変わった。

 「(しんどいからこれ以上)もうやれん」

 これが新しい組織の名前である。

 こうやれん(高野連)をもうやれん(妄野連)にしたクソほど面白くないしょうもない駄洒落である。

 早速生まれ変わった高校野球がもうやれん(妄野連)により開催された。

 生きてるだけでみんな優勝の高校野球は地方大会の出場校も小論文で決める。

 脳みそがグローブで出来ていて股の間にバットとボールがついている、野球をするという目的のみに特化した野球小僧たちが小論文など書けるわけがない。

 その結果、出場校はわずか十校という淋しい高校野球大会となってしまった。

 だがうさこ長官はその結果に大満足である。

 こうしてサッカーやバスケットボール、ラグビーなどにも対して厳しい改革を要求したうさこ長官はとうとう教育現場から体育を除外した。

 その結果、日本のスポーツ界は変わり果ててしまった。

 イケメントレーナーが多数在籍するフィットネスジムが雨後の筍のような勢いで増えていき、コンビニの隣には必ずフィットネスジムが在る、そんな状況になった。

 これこそがうさこ長官の望んでいたスポーツ業界の在り方であった。そしてそれは新しい利権構造の誕生でもあった。

 二年後、東京地検特捜部によりうさこ長官が逮捕された。容疑は不正な献金と贈収賄であった。

 うさこ長官はフィットネスジム業界から多額の賄賂を受けとるだけではなく、トンネル会社をつくり不正な利益を得ていたのである。

 こうしてうさこの野望は潰えた。

 だが、ゆる~くスポーツを楽しもうぜという習慣は以前よりも広がり、皮肉なことにスポーツ人口は増えたのである。

 ただ、本気のアスリートと緩いアスリートの間に深刻な分断が起きた。

 こうしてままならないスポーツの世界は分断という問題を抱えながらも互いに共存することを模索しながら発展していく。

 そんな様子をうさこは獄中から幸せな気持ちで眺めるのであった。

#下書き再生工場

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