おばさんだけど、シャーマンです: 龍神と私の物語 第16章
第16章 黒龍との出会い──霧島の嵐
気力も体力も落ち込んで、仕事のクオリティも下がってた私を 気晴らし旅行に誘ってくれたのもTちゃんだったの。
「九州の温泉に行こう。心も体も休めて楽しもう」ってね。
「じゃあ、美味しいもの食べて、行きたいと思ってたところに行こう」と 話はすぐ決まったの。
私たちの計画はいつも急だから、空いてる便の飛行機を探すのも大変だし、泊まれる温泉宿を探すのも大変だったわ。今回は鹿児島空港から始まって 帰りは福岡空港に決定。
2週間後、鹿児島に到着した私たちは まずレンタカーを借りて霧島に行くルートで、気持ちよく出発したの。
空港に到着した時には小雨だった空模様が崩れてきたの。「天気が不安定だけど、何か意味があるのかな?」Tちゃんの問いかけに、私は自分の青龍が少しざわめいているのを感じていた。
霊峰高千穂峰に続く大きな木々を背に300年前の建造とは思えない、朱塗りの鮮やかな霧島神宮本殿は雨に濡れてより美しく映えているようだったわ。でも、私には後ろの高千穂峰が私達に覆いかぶさってきたように感じたの。山から降りてくる霊気は参拝する私たちを雨とともに包み込んでいるみたいだった。
本殿を離れ急かされるように移動してきた古宮趾の駐車場で、車を降りる頃に天候はもう激しい雨模様になっていたのよ。
「こんな雨の中、本当に行くの?」Tちゃんが笑いながら尋ねた。「うん、どうしても呼ばれている気がするの」と答える私に、彼女はため息をつきながらも折り畳み傘を差し出してくれて、大雨風の中を一緒に車を降りて歩き出してくれたの。
すぐに強風と激しい雨に抵抗出来なくなり、傘をたたんだの。雨が風に舞っているから上からも下からも、360度いろんな方向から雨がたたきつけてきたの。風に煽られるたびに、冷たい雨粒が顔に叩きつけて、視界はぼやけ、足元は濡れた砂利で歩きづらかったけど、それでも、Tちゃんと手を繋ぎながら、一歩一歩進んだの。大柄のTちゃんが居なかったら、目的の場所まで到達できなかったと思う。
古の祭壇の前に立った瞬間、時が止まったように感じたの。雨音が遠のき、重々しい空と祭壇が、私たちに威圧感を送って来ているようだったわ。その祭壇の後ろには見たことの無い大きな黒龍が姿を現してきたの。
心を整えて手を合わせた途端、その土地の神様と黒龍の声が重なって聞こえたの。
「よくここまで来た。ここは天と龍と人との大事な場所。雨は天と龍からの浄化の贈り物だ。これからは龍と一緒にたくさんの使命を果たすように。」
頭の中に大音量で流れるこの言葉を聞いているあいだ 足の裏がピッタリ地面にくっついてしまったように 全く動けない状態だったのよ。いつも私の背後に感じる私の青龍も、同じように微動だにしていなかった。こんな経験はこの時が初めてだったの。たくさんのエネルギーを貰ったのか 自分自身がアップデートされたのか、不思議な感覚で 耳もジーンとしていたの。
身体が動けるようになるには少し時間がかかった気がしたの。
「大丈夫?」Tちゃんの声をきっかけに、身体が動くようになった。その時、私と同じように青龍が動き出したことを感じたの。
かれは空高く 雲の中を楽しそうに泳いでいるようだったわ。
さっきとは打って変わった小雨の中、車まで戻るのにそんなに時間はかからなかったの。あんなに遠く感じた祭壇までの道のりが、ほんの数分の距離だったとは信じられなかったわ。
車のエンジンをかけ、暖房をめいっぱいにして 身体を温めながら、頭に浮かんでいる場所の地図を検索していたの。
「次のお参り先が思いついたの?」
「うん、少し離れているのだけどね」
髪の毛が乾き そんな会話をしている頃には 空が明るくなり、雨が既にやんでいたのよ。