核融合炉と私

2020年
間遠 俊雄

  私たち、架空物理現象研究会の2019年度の虚像祭の演し物は「核融合炉の作成と、発電の実演」と部員同士の討議の末、決定しました。皆様もご存じの通り、核融合炉の作成はアメリカ等では盛んで、現時点で12歳の少年が作成した、という例もあるほどです。テーマの設定自体は、昨年度先輩方がチャレンジした「霊的上位存在についての実証実験」とくらべて、大分地に足の着いたものだったと思います。

 しかし、現実的であったはずのチンケな核融合炉は、テスト運用の際にウラヌスガスの影響を受け、爆発的なエネルギーを発生させることとなりました。隣の部室で生物部が飼育したアルテミアを突然変異させ、巨大な、そう体重15,000tを誇る海老KAIJUとも呼べる存在を生み出してしまったことも、皆さんご存じの通りです。


 私の幼なじみの近藤真魚さんは、彼のKAIJUを鎮めるため、当校の伝統芸能部に脈々と伝わる魂鎮めの儀式を行いました。部長として、贄の巫女としての役割を立派に果たし、KAIJUを鎮めることに成功しましたのも、皆さんのご存じの通りです。しかし、彼女の最期の舞と、神楽鈴の響き、深淵に飛び込む際に見せた表情は、見届け役として隣にあった私しか知らないものと思います。


 あのとき彼女が見せた姿は本当に、人間の美しさ、その真髄を感じさせるものでした。あの美を再現し、人々に伝えるため、私は卒業後も核融合炉と生物の研究を深めていきたいと考えています。