見出し画像

経営学から形成外科の未来を考える:価値有限vs価値無限


形成外科医としての生き方の悩み

私は、形成外科の医師としてアルバイトではクリニック、普段の仕事では医局(大きな病院)に勤めてきました。
形成外科のトレーニング時期(専修医)の時は、自己の成長・手術ができるようになることが働くモティベーションでした。しかし、専門医を取ると、周りの同僚は医局を辞めて美容外科や国内・海外への留学など新たな職場へ移動する人もいる中、本当に働き続け、生き残っていくにはどうすれば良いのか漠然と不安となりました。

canvaで作成


自分のスキルを、再建外科・美容外科・小児先天奇形・手の外科などのサブスペシャリティー選択し、極めた方が良いのか?
毎年形成外科の医師は増えているのに、全体の症例数は増えない中で、一体どうやって経験を積めば良いのか。
また、経験のためだけではなく、経営面でもサブスペシャリティーを決めたとして、その分野の世界に行く場合は同じ症例の奪い合いなのではないかと考えました。

Youtube動画:経営学からアイディアをえる


pivotの動画で、東京大学の大学院で経営学の博士号を取得した、岩尾俊兵先生(慶應義塾大学准教授)のお話がありました。

経営学の視点から考えた時

『価値有限の考え方』と『価値無限の考え方』がある。

pivot 動画内より

このお話が、動画の中で最も興味深かったです。

価値有限の考え方の世界では
例えば、病院の集客をするときに、近隣のクリニックに症例を紹介してくださいというお手紙を出したり、地域の医師の勉強会を主催したりし、広報活動をすると思います。
これは、普段はA病院に紹介されていた分を、B病院に回してもらうという発想で、肝心の症例の数は変わりません。

他には、美容外科で集客しようと考えた時、埋没の手術を受ける人の数は有限で、その中でSNSを行ったり、自分のネームバリューを上げることで集客するということです。
つまり、戦国時代のように陣地の取り合いとなります。

価値無限の考え方の世界では
例えば、研究で新たな治療方法を開発するといったことです。
形成外科の歴史から言えば、新たな術式が開発される中で成長してきました。
下眼瞼のたるみについては、ハムラ法というのが1995年にハムラ医師が発表しました。つまり、新しい市場を開拓したワケです。

EBMの障害?価値創造・新たなアイデアが生まれるためには。


EBMとは、『Evidence-Based Medicine』の略です。
これまで医師の経験や実験的な医療のために生じていた患者への不利益を産んでいた過去からの反省で、科学的根拠に基づいた医療をするように改善されてきました。

形成外科の術式は古くから行われていますが、形成外科としての科目としての確立は、1955年にストックホルムで第一回国際形成外科学会が開かれたところです。その後、1956年、東大病院の整形外科の中に形成外科の診療班であるplastic surgery研究会が作られました。
参考文献:https://jsprs.or.jp/member/about/history.html

free flapや穿通枝皮弁など、さまざまな新しい術式が確立されました。またデバイスや薬も発展してきました。


今日までは確立した治療法に関して、実際に治療効果がどうかを検討した論文が作成された時代だと思います。
そして、その比較検討された論文を参考にし、EBMに基づいた治療を行うために、治療ガイドラインができました。
実際に日本形成外科学会の診療ガイドラインは2009年に初めて具現化され、その後各学会でシンポジウムなどが開催され、5年かけて形成外科領域のガイドラインが2015年に出来上がりました。
参考文献:https://jsprs.or.jp/docs/guideline/keiseigeka1.pdf

形成外科の若手と言われる世代は、このガイドラインに沿った治療を勉強してきました。新しい術式を作るなどの機会はなかったと思います。

しかし、現在の医療でわかっていることは、実はほんの一部で、ガイドラインではまかないきれない症状をお持ちの患者さんや、1回治療を行ったけれども治らない患者さんもいるわけです。

EBMはもちろん大事ですが、医師側も限界を決めてしまっているのではないでしょうか。
そして、今治療の対象となっている患者さんの奪い合いになっているのではないのでしょうか?

『埋没1000例やりました!』などは、価値有限の中では、声高々に自慢になり、他の医師を差し置いてこの時代を生き残るためには役立ちます。
しかし、他に若手の医師が出てきた時は、患者さんの奪い合いになり苦しい状況となるため、自分の技術を継承しようという気にはならないかもしれません。医療の発展という上では、価値有限の発想は、足かせになります。

やはり、形成外科の歴史に立ち戻って、これまでの医療では解決できなかった患者さんの悩みについても解決する方法を探求することが医師としての使命であり、醍醐味でもあると考えるのです。

研究者としての価値創造・夢の話


これは、私の頭の中の夢でもあるのですが、形成外科の手術でのジレンマがあり、それを解決できたらと思うのです。
形成外科はさまざまな組織の再建を行いますが、必ず組織を採取した部位に新しい傷ができてしまうのです。

例えば、乳がんで乳房を失った人に、お腹の組織を移植する手術(DEIP)を行います。この時、乳房は作れるものの、お腹に20~30cmの新たな傷ができてしまうのです。
最近は脂肪移植などの術式も自費診療ではありますが、大きさの大きい乳房には限界があります。インプラント(人工での素材)での再建もありますが、術後の放射線治療ができなかったり、数十年に1回入れ替えが必要なデメリットがあります。

今後、再生医療などが発展すると、自分の組織を培養して、失った組織を作り移植するという技術ができれば、新しい傷を体につくらずに再建できる時代がくるかもしれません。

価値有限の中では、狭い常識にとらわれ、新しい可能性に気づかないかもしれません。価値無限の世界は、自分で開拓の余地があり、これこそ社会にも還元でき、医師の仕事のやりがいを感じられる進むべき道と感じたのでした。

このyoutubeを通じて、私の中で咀嚼したことで、
今の私の悩み、サブスペはどうする?美容にいったほうが良いのか?などの煩悩は消え去りました。
それよりも、日々の診療の中でガイドラインやEBMでは解決しきれない問題に目を向けて、患者さんのニーズに耳を傾け、考えることが私にとって重要と気が付けました。


関連記事

研究に興味ある時、大学院にいくかどうか迷うのではないでしょうか?


いいなと思ったら応援しよう!

DR.YOU
お心遣いありがとうございます。いただいたサポートは医学の勉強や情報収集といった活動資金にあて、より充実した記事の作成に役立てていきます!