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【読書録005】『芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム』
脳みそって結局どないなって芸術を生み出してはりますのんや!?
という方にオススメの本を紹介します。
『芸術脳の科学
脳の可塑性と創造性のダイナミズム』
著: #塚田稔 2015年
■少し古いといってもつい5年前の著作ですが、装丁と挿絵がやけに古くさい(懐かしい)感じがするのブルーバックの本。
センセーショナルな言説などもなく、脳の機能や成り立ちにのみ徹底フォーカスした解説本です。
難しいはずの内容をわずか190ページに収め、かつ平易な文章で読みやすく仕上げてくれています。
(ある意味、伝えたいという執念を感じます)
ちなみに本書における「芸術」とは、あくまで「絵画」のジャンルであり、音楽とダンスについては少し触れる程度。
文学、演劇、映像、造形、パフォーミングなどにはほぼ全く触れませんので、そこらへんは予めご承知おきを。
■まず序文1行目。
芸術は人間の創造物であり、人生をいかに生きるのか、また生きているのかといった、自分の存在を証明するための内部表現といえる
という著者が60年間問い続けてきた思いについては、個人的には100%賛同・共感するものでして、昭和のジジイが平成の時代に叩きつけた、1つの答えと言えるでしょう。
■クリエイターの方へ。
立ち読みでもいいのでここだけは要チェックですよ。
第1章4項 創造の五つの手法
(1) 加算的創造
(2) 水平面的思考の創造
(3) 自己進化の創造
(4) 垂直思考の創造
(5) 超脳の創造
(↑※何故かここだけ胡散くさい)
■脳内世界は3つあるらしい。
(1)再現的世界
現実に即した、具体的なもの
(2)情報創成の世界
観念、概念的な、抽象的なもの
(3)もうひとつの世界
よくわからない異次元のもの
(↑※何故かここだけ胡散くさい)
■脳の働きについて全然興味のない方は、これだけざっくり知っておきましょう。
「左脳」=論理、分析、言語
「右脳」=直感、連想、空間
芸術家は芸術作品に立ち向かう際、この左右の行ったり来たりに苦しみ、喜び、のたうち回っています。
■以下、本書に関係ない私見です。
絵画と音楽は、並列に語るには無理があります。
(元画家志望の妻と、よくこの談議をします)
展示会と演奏会を比較してみます。
 ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄
絵画は、制作の過程は表に出てこない。
音楽は、人前で制作するのが前提。
絵画は、後に残る。
じっくり見れる。
音楽は、現場でしか生音は聴けない。
記憶で思い起こす。
絵画は大抵の場合、作者一人で創る。
他者との対話は不要、作者の納得感が全て。
音楽は大抵の場合、複数人で創るもの。
対話ありきで、各種分業も管理監督も大切。
当然、作者の気概もスタッフのあり方も、同質とは言えない。
表現の対象や技術も売り方も、目指す主義主張も違って当然です。
よって、音楽家の方が本書を芸術論として鵜呑みにするには、少し期待ハズレになるでしょう。
ただ創作や鍛錬の参考文献として「脳の仕組み」を知ることで、もしかしたら取り組み方を改善することは出来るかも知れません。
■脳については左右だけではない分類も知っておきましょう。
「後脳」=過去の記憶、把握、反省
「前脳」=未来の推測、理想、創造
去年の反省は「後」
来年の抱負は「前」
試験に向けて暗記をするのは「後」
ゲームの攻略に熱中するのは「前」
仕事をこなす、さばくのは「後」
仕事を作る、工夫するのは「前」
役割としては別々であるはずの「脳の前後」。
ここも行ったり来たりするから、創作って楽しいんですね。
作るのも、味わうのも。
ちなみに人間を分類するのに右脳型とか後脳型とかいうのは正しくありません。
全員、全部、使ってます。
そして、思考以外の各所である運動野、聴覚野、視覚野、などを最もフル活用し鍛え上げることができる楽器としては、ピアノとドラムセットの2つが断トツに優れています。
■おわりに、から垣間見える筆者(当時76歳)のワクワク感。
「老後になっても増殖し続ける神経細胞が海馬(記憶に関係する脳の部位)に存在することが明らかとなった。
歳をとっても脳は活性化し、新たな情報をつくり出すことができる。
あきらめと無気力こそが脳の思考力をなくし、脳を死に追いやっている。
創造主である神は最後まで人間に創造的生き方を期待している証であろう。」
諸君、歳をとっても楽しいぜ!
私も色々、あきらめないから!
そう言ってる気がします。
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第1章 脳と創造
第2章 再現的世界の役者たち
──特徴抽出
第3章 情報創成の役者たち
──学習と記憶
第4章 脳と絵画
第5章 筆者の絵画と音楽とダンス
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