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熱性けいれんに対する私見 -救急搬送の意義-

年始の休暇を超えても救急外来は逼迫しています。自施設でも受け入れに難渋するケースも増えており、各所に難儀をかけ申し訳なく思います。
やまない雨はないので、何とかできることを続けていきたいと思います。

今週、X(旧 twitter)を中心に熱性けいれんが注目されました。
(発端となった投稿はセンシティブなので掲載しません。)
まず結論から言うと、
「熱性けいれんと思われる症例はすぐに救急搬送すべき」
と考えています。この理由に関して今回の記事で述べていきます。

ハイライト


熱性けいれんの緊急性

熱性けいれんの危険性、予後はどれくらいなのでしょうか?
基本的には予後良好で、多くが5分以内に自然に止まる、とされています。
「だったら、すぐに救急車呼ばなくてもよいのでは?」「ちょっと待ってから電話すればいい?」と思うかもしれません。
これに関して私は以下の2点で危険だと考えています。

1つ目は、けいれんが本当に止まっているか判断するのはかなり難しいという点です。熱性けいれんは典型的には「目を上転させ手足を小刻みに左右対称的に上下させる」ような動きが見られます。
しかし、実際には典型的でない症状もあります。例えば一点をただ見つめるだけであったり、口をモゴモゴと動かしていたり、あまり反応がなかったりする、こういった症状が実はけいれんであった、ということがあります。
本当にけいれんかそうでないかは、診察しないと判断できない場合があります。
ですから、止まったどうか判断できない状況で、その場にいる家族が数分待つというのは難しいと考えます。

2つ目は、救急車が到着するまでに時間を要するという点です。私が学生の頃は救急車の到着平均は8分前後と言われていました。最新の令和4年のデータでは10.3分(全国平均)であり年々延びてきています。通報してから病院収容までの時間はさらにかかり47.2分かかります(消防庁.令和5年版 救急・救助の現況)。
けいれんが30分続くと脳障害を引き起こしうるとされており、少しでも速くけいれんを止めるべきです。熱性けいれんのうち、けいれんが続く重積状態になる確率は最大5%と言われます(Semin Pediatr Neurol. 2010 Sep;17(3):150-4. )。高い確率ではありませんが、発症段階では重積状態になるかならないかは誰にもわかりません。
また稀ではありますが、けいれんだと思っていたものが、致死的不整脈であった=心停止であったという報告もあります。もちろんこの場合も緊急性は非常に高く即座に救急要請すべきです。

まとめると
①家族がけいれんが止まっているか判断するのは難しい
②医療機関まで搬送するには時間を要する 
③高率ではないが、30分以上けいれんが続く(重積状態)場合、脳障害を引き起こしうる
これらの観点から「熱性けいれんと思われる症例はすぐに救急搬送すべき」と考えています。また何より、目の前で自分の子どもがけいれんしたら落ち着いていられないと思います。

救急搬送を取り巻く現状

一方の意見を述べるのはフェアではないため、何故ここまで注目される発端になった投稿があったか、私なりに解釈したいと思います。
※きっかけになった投稿を擁護するわけではありません。こうなった背景を述べていきます。

連日ニュースでもある通り、全国各地でインフルエンザなど感染症が流行しています。最初に書いた通り、この数日は自施設でも受け入れに難渋しています。救急搬送時間は延長し、なかなか受け入れできない現状があります。その間救急隊は受け入れ先が決まるまで各所に要請しつづけなければなりません。

報道されているように救急搬送者数は年々増加しています。休憩もせずに何時間も活動した、署に戻ったらすぐに出動することになった、ということもよく耳にします。受け入れ先が遠方であれば、往復で数時間活動することも珍しくありません。そういった過酷な中での投稿だったのだろうと想像します。

最後に

医学的な知識だけでなく私見が入った内容になってしまいました。
いち救急医の意見として捉えていただければ幸いです。
今回を期に熱性けいれんに関して知りたいかたは、以下を参照いただくと学びになると思います。

参考文献:
・熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023


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