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AEDの是非について:救急医の立場から

ここ最近、SNS等でAEDを使うべきか、いろんな方の意見を目にします。
まずはじめに、もし自分が誰かの心停止に遭遇したら、どんな状況でもBLS(一次救命処置)を実施します。
これは、バイスタンダーによるCPR(心肺蘇生)が傷病者の予後に直結することを身をもって知っているからです。
今回の出来事によってAEDを忌避する流れになることを非常に危惧しています。AEDの有効性とBLSに関する現状を、救急医の立場から述べていきたいと思います。

CPRに関する記事

ハイライト


何故AEDを使うべきなのか

心停止に関わる現状をつい先日公表された「令和6年版 救急・救助の現況」を基に進めます。
令和5年の間に発生した心原性心肺停止(※1)の方の数は28354人で、そのうちバイスタンダーCPR(※2)が行われたのは16927人(59.7%)です。
バイスタンダーCPRがあった傷病者の1ヶ月後生存率は14.8%で、なかった場合の7.3%より2.0倍多くなります。
このうち除細動を実施した傷病者数は1407人(5.0%)でした。ここでいう除細動はほぼAEDと同義です。AED使用した場合の1ヶ月後生存率は54.2%であり、バイスタンダーCPRがなかった場合と比較し約7.4倍と飛躍的に上がります。
医療従事者がAEDを使用してほしいのは、除細動できる心停止では大幅に生存率が上がるからです。そしてこれは残念ながら医療従事者だけの努力では叶いません。傷病者の未来はその場で発見したあなたに委ねられています

※1:心原性心肺停止:心臓自体の以上によって生じた心肺機能停止
これに対して呼吸原性心肺停止があり、これは窒息や溺水など呼吸の障害による心停止を指します
※2:バイスタンダーCPR:現場に遭遇した人による心肺蘇生を指します

「令和6年版 救急・救助の現況」を基に作成

BLSにまつわるデータ

以前のNoteでお伝えしましたが、日本において救急隊が通報から現場につくまで平均10.0分かかります。
バイスタンダーCPRの開始するまでの時間と救命率は関連することがわかっています。米国のレジストリを使用した報告では、1分以内に開始できた場合の救命率は22.4%であるのに対して、10以上経過した場合には10.5%に半減しています(Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2024 Feb;17(2):e010116. PMID:38146663)。
救急隊が来る10分間にCPRがされない場合、救命率が1/2に下がってしまう可能性があるということです。
前述の通り日本では、心原性心肺停止において6割のかたはバイスタンダーCPRがあったとされています。年々実施率は上がっています。さらに実施率をあげるべく各地でBLSの普及活動が行われています。
事前に職場やイベントなどの講習会に参加することが望ましいです。最近では動画でも学ぶことができます。

法律に関する観点から

法律に関しては専門家ではないため、詳細な言及は控えます。
しかし、実際に救命の場で法律がどう関わるのか、気になる人はいると思います。以下のHPがよくまとまっているので共有します。

民法にある「緊急事務管理」の規定がポイントになります。
現行の規定では、悪意や重大な過失がない場合には救命処置に関わる不利益は原則免責されるものと解釈されています。救命しようとする方に悪意がある状況は極めて特殊でありまずありえないだろうと考えます。

しかし、昨今は野次馬によるSNSなどでの悪意のある拡散が多々見られます。私個人としてはそこに対して対処していくべきと考えています。
現時点でできることとしては、多くの協力者を募り壁を作る、バリケードを作るなどが考えられます。

最後に

救命処置に関して一救急医としての雑感を述べさせていただきました。
徐々に広がりつつある救命の連鎖を絶やさないように、日々努めていきたいと思います。

参考資料:
・総務省.令和6年版 救急・救助の現況.2024-01-24.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000987804.pdf

・公益社団法法人 日本AED財団.AEDの知識.
https://aed-zaidan.jp/knowledge/index.html


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