あなたのモデルナアームは大丈夫ですか?
いまさらですが、有名なモデルナアーム。なったことはありますか?
この記事は、2部に分かれています
第1部は、日本人に出現したモデルナアームについてです
第2部に、特別に重症のモデルナアームの症例の説明があります
第1部 日本人に発症したモデルナアームについての説明
モデルナアームとは?
新型コロナウイルスに対するモデルナ社のワクチン (mRNA-1273)を
接種した後の腕に起こる異な皮膚副反応として報告されています
正式な名称は、遅延型大局性反応(delayed large local reaction:DLLR)です。米国では「COVID arm」、日本では「モデルナアーム」と呼ばれています
モデルナアームが出現する時期
東京の自衛隊大規模予防接種センターでmRNA-1273ワクチンを接種した5,893人のうち、747人(12.7%)が初回接種後にモデルナアームを経験しました。症状は軽度と判断され、モデルナアームが発症したことが理由でワクチンを禁忌とはしませんでした
モデルナアーム出現の男女差
男性は20人に1人、女性は5人に1人にモデルナアームが出現した
詳しくは、
調査した5,893人のうち訳は、(男性3318人[56.3%],女性2575人[43.7%]).男性の年齢中央値は55歳(IQR, 38-68歳; 範囲, 18-92歳),女性の年齢中央値は50歳(IQR, 34-67歳; 範囲, 18-94歳)
発症率は,男性(5.1%[170名])よりも女性(22.4%[577名],OR, 5.30;95% CI, 4.42-6.34)の方が有意に高かった
モデルナアーム出現の年齢層
30歳から49歳が、50歳以上と8~29歳よりもモデルナアームの発症頻度が高かった
詳しくは、30歳から39歳(14.3%[129人]; OR、1.68; 95%CI、1.25-2.26)、40歳から49歳(15.8%[136人]; OR、1.89; 95%CI、1.41-2.53)は 50~59歳(14.9%[104人]; OR、1.76]; 95%CI、1.29~2.40)、60~69歳(12.6%[182人]; OR、1.45]; 95%CI、1.10~1.91)、および18~29歳(9.0%[81人]、参考)より高いことが示された
日本人のモデルナアームは、欧米人の10倍多い
モデルナアームは遅延型の免疫反応です。なぜ日本人女性に特に多いかは、体格が小さい、環境要因、など様々な説があります
以上は、JAMA Dermatol. 2022 Aug 1;158(8):923-927に掲載された論文をもとにしています。ブログでの説明しています
第2部 特別に重症のモデルナアームの症例
はじめに、ここでご紹介する症例は今のところ非常に珍しいです
この患者さんは1回めや2回めはよくある痛みなどでしたが、3回めのモデルナ注射の後に、珍しいほど重症のモデルナアームを発症しました
症例報告
64歳男性です。基礎疾患は冠動脈疾患と糖尿病があります。薬物やワクチンの副作用の既往歴はなし,SARS-CoV-2感染の既往もなし。
7ヶ月前と8ヶ月前に、モデルナのワクチン接種を、いずれも左上腕に接種していました。2回とも1日続く程度の発熱と軽い腕の痛みがありましたが病院受診するほどひどくはなかった
今回、3回めのモデルナ mRNA-1273ワクチン(50 μg)を同じ左上腕に接種して1週間後に発熱、疲労、左上腕の痛みと腫れを発症して持続し、さらにそれから6日後に左上腕に激痛が生じ、腫脹は手まで達し、注射部位が赤くなり治らないため、接種から17日後に当院を受診しました
今回の受診時には発熱(38.7℃)があり、腕の写真を提示します
左腕の腫脹,左三角筋と上腕三頭筋に紅斑を伴う圧痛,木質化した硬結を認めました。肩、肘の可動域は筋肉痛と腫脹により制限されていました
検査所見
検査の炎症所見が非常に亢進していました。赤血球沈降速度127mm/h(基準0-13mm/h)、CRP値250.8mg/L(基準<8.0mg/L)と異常な高値です
大球性貧血と急性腎不全を認めたが,ミオグロビン尿はなかった.
血液培養とSARS-CoV-2 PCR検査は陰性でした
トロポニン値は30ng/L(基準値0-14ng/L)と上昇していたが,血清クレアチンキナーゼ(CK)は上昇してなかった.SARS-CoV-2スパイク抗体価は25,000ユニット/mL以上であった.リウマチおよび筋炎に関連する自己抗体の広範な検査は陰性であった
心電図でも活動性虚血や心筋炎の所見は認められなかった.
画像診断
MRIで左三角筋、上腕三頭筋、上腕筋の広範囲な筋炎とその周囲の浮腫信号強度および近位上肢の腫脹変化が示されてます
左三角筋,上腕三頭筋,上腕筋に広範囲に炎症があると考えられました。膿瘍や骨髄炎は認められなかった.
左三角筋のバイオプシー結果
そこで外科的に三角筋を生検して組織の病理学的検査をしました(図3a-c)
微生物が感染しているか調べた微生物学的染色は陰性で、組織の微生物を培養した検査も陰性でした。さらに、ワクチンのSARS-CoV-2スパイクmRNAの存在を、in situハイブリッド法(ISH)で調べましたが陰性でした(図3D)
左端は三角筋生検組織のヘマトキシリン・エオジン染色標本 (図3A)です。萎縮線維と壊死線維(図3A,矢印)がランダムに散在しています。それから,(図3A,矢頭)に筋貪食像がみられました.
筋内膜と筋周囲にびまん性の慢性炎症の時に見られる細胞が存在していたので、免疫染色で種類を調べた結果、多数のCD3が陽性のT細胞と(図3B)、CD4陽性 およびCD8陽性 T細胞が存在し (写真なし)、ならびに一部にCD20陽性の B細胞 (写真なし)、および多数のCD68陽性の組織球(C)が存在しました。スケールバーは200μmを表す
治療
当初,バンコマイシンとピペラシリン・タゾバクタムの静脈内投与が行われたが,改善しなかった.血液と組織培養が陰性になったため、抗生物質を中止した。
次に経口プレドニゾン(40mg/day)が開始され、ほぼ即効性のある効果が得られた。痛みと発熱は2日以内にほぼ消失し、腫脹と圧痛の客観的な減少、可動域の改善を伴った。
炎症マーカーと腎機能は改善したが、貧血は持続した
そして、実はこの患者さんは骨髄生検で,骨髄異形成症候群(MDS-MLD)という骨髄疾患であることが判明しました。免疫力が普通ではなかったということです
今回は稀な重症のモデルナアームのご紹介でした。
論文記事はこちら
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