新年特別公開@H5N1インフルエンザ重症例の詳細。 NEJM より
明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。
皆さまが初夢を見終わるまで公開延期していた記事です。
昨年、11月のカナダ ブリティッシュコロンビアの10代がH5N1/A鳥インフルエンザに感染し重症化した件につきNew Engl J Med に12月31日2024年 論文が掲載されました。
Critical Illness in an Adolescent with Influenza A(H5N1) Virus Infection.
Michael G. Ison, et al. New England Journal of Medicine. リンク
臨床経過
2024年11月4日、軽度の喘息の既往歴があり、BMI が35を超える13歳の少女が、両眼の結膜炎の2日間の既往と1日間の発熱の既往を伴ってブリティッシュコロンビア州の救急外来を受診しました。少女は治療を受けずに退院しましたが、その後に咳、嘔吐、下痢が起こり、11月7日に呼吸困難と血行動態不安定で救急外来に戻りました。
11月8日、患者は二相性陽圧呼吸療法を受けながら、呼吸不全、左下葉肺炎、急性腎障害、血小板減少症、白血球減少症のため、ブリティッシュコロンビア小児病院の小児集中治療室へ入院しました。入院時検査所見の補足表1. は文末。入院時に採取した鼻咽頭スワブは、BioFire Respiratory Panel 2.1アッセイ(BioFire Diagnostics)でインフルエンザA陽性であったが、A(H1)およびA(H3)は陰性であった。Xpert Xpress CoV-2/Flu/RSV plusアッセイ(Cepheid)による検体の反射検査では、インフルエンザAサイクル閾値(Ct)値が27.1であり、入院当日、インフルエンザA(H5)2に特異的な逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査が陽性であった。
オセルタミビル治療は11月8日に開始され(表S2)、眼の保護具、N95マスクの使用、および飛沫、接触、空気感染に対するその他の予防措置が実施された。
患者は呼吸器系悪化の兆候を示し、急性呼吸窮迫症候群 ARDS へとの進行した。11月9日に気管挿管と ECMO (人工肺とポンプを用いた体外循環による治療)を開始した。
入院時11月8日と翌日9日の胸部X線写真を示す(図S1 AとB)。
持続的腎代替療法は11月10日に開始された。アマンタジン(11月9日に開始)とバロキサビル(11月11日に開始)による併用抗ウイルス治療が、オセルタミビルによる継続治療に加えられた。血液(入院時に採取したサンプル)および気管内吸引液(挿管後に採取したサンプル)の細菌培養では、細菌の増殖は認められなかった
サイトカインによる血行動態不安定性への懸念から、11月14日から16日まで毎日血漿交換を実施した。
インフルエンザA型特異的RT-PCR検査を連続的に実施した結果、抗ウイルス治療開始後まもなく血清中のウイルスRNA量および上気道および下気道検体中のウイルスRNA量の減少がCt値の上昇から示唆され、血清のRT-PCR結果は11月16日に陰性となった (表1)
インフルエンザ A(H5N1) ウイルスは、11 月 8 日から 11 月 12 日の間に採取された呼吸器検体から培養されましたが、それ以降の呼吸器検体や血清検体からは培養されませんでした (表 1)。
下気道検体は一貫して上気道検体よりもCt値が低く、下気道のウイルスレベルが高いことを示唆する所見であった (表S3)
治療に使用された 3 種類の抗ウイルス剤のいずれに対しても、一連の呼吸器検体において、NA-Star インフルエンザ ノイラミニダーゼ阻害剤耐性検出キット (ThermoFisher Scientific) を使用したゲノム解析または表現型検査のいずれにおいても、感受性が低下したという証拠は認められませんでした (表 1)
患者の呼吸状態は改善し、11月22日にECMOが中止され、11月28日に気管から抜管された
補足表3. H5N1患者の臨床検体に対するウイルス学的検査結果 (4つに分かれています)
ウイルスゲノム
11月9日(症状発症から8日後)に採取された気管吸引検体から得られたウイルスは、同時期にブリティッシュコロンビア州の野鳥で検出されたウイルスに最も近い系統群インフルエンザA/H5N1 クレード2.3.4.4b、遺伝子型D1.1 に分類された
患者から11月9日に採取された気管吸引検体では、ヒトへの適応のマーカーが検出され、ヘマグルチンH5には人の呼吸器に発現するシアル酸レセプターに結合親和性を高める変異があった
PB2のE627K
H5のE186とQ222
総評
患者は軽度の喘息があり、BMIが35の13才の少女。
*BMI 35は小児の基準で肥満。
結膜炎の発症から6日後に、左下葉の肺炎と急性腎障害を発症しています。
感染していたウイルスは周囲の野鳥に流行しているインフルエンザA/H5N1 の遺伝子型 D1.1 ですが、この患者に、人に感染しやすい遺伝子変異が3ヶ所に出現していました。
🔵 同じ変異のあるインフルエンザウイルス A/H5N1 が動物に発見されない
🔵 他人や他の動物からインフルをうつされた経緯がない
3ヶ所の遺伝子変異は、ウイルスがこの人の体に感染してから出現したと考えられています。
さらに、米国ルイジアナにもインフルエンザウイルス A/H5N1 に感染して重症化している患者がいます。両者とも、遺伝子型 D1.1 でヘマグルチニン H5にE186の変異があることから、H5のE186 変異は重症化と関連している可能性があります
この患者は、抗インフルエンザウイルス薬 (オセルタミビル、アマンタジン、バロキサビル) 使用の他に、以下の3療法を実施した。できる限りの高度治療をおこなって救命できた症例になります。
ECMO (人工肺とポンプを用いた体外循環による治療)
持続的腎代替療法
血漿交換
✅ この患者から他者への感染はありません。
✅ この患者の周囲で類似の症例はありません。
✅ 市中における高病原性鳥インフルエンザウイルス A/H5N1 のリスクは低いままと公表されています
✅ この症例と米国ルイジアナの重症例で共通して見つかったH5のE186 変異は重症化と関連している可能性があります
以上です。最後まで読んでくださいましてありがとうございました。
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