帝王切開の麻酔 2024~嘔気嘔吐の原因と対策①血圧~
こんにちは。
産科麻酔科医ドクターまるです。
さて、前回は帝王切開の麻酔管理中の嘔気嘔吐の概要についてお話しました。
今回から何回かに分けて、帝王切開の麻酔に関連する嘔気嘔吐の原因ごとの対策についてまとめようと思います。
今回は、低血圧について。
なぜ、起こる?低血圧
理由は、血管拡張です。
前回も書きましたが、帝王切開の麻酔は、基本的には脊髄幹麻酔。
特に主役は、脊髄くも膜下麻酔(下半身麻酔)です。
脊髄くも膜下麻酔では、交感神経遮断が起きます。
しかも、帝王切開で必要な胸椎~仙椎(胸からお尻)レベルまで、広い範囲の交感神経が遮断されます。
すると、血管が拡張し血圧がさがります。
脊髄くも膜下麻酔で管理している帝王切開術において、低血圧は約75%で起こると言われています。
低血圧と嘔気嘔吐
では、血圧をどの程度で維持したらよいのか。
推奨されるのは、収縮期血圧を麻酔導入前の90%以上に保つこと。(Kinsella SM, et al. Anaesthesia. 2018; 73: 71-92.)
このたった10%の血圧低下でも、嘔気嘔吐のリスクが増えると言われています。(Ngan Kee WD, et al. Br J Anaesth. 2004; 92: 469-74.)
低血圧の対策
さて、目標の血圧がわかったところでその方法です。
どのようにして血圧を維持したらよいか。
昇圧薬
まず1つ目は、昇圧薬です。
現在の第1選択薬は、フェニレフリンです。(Anesthesiology. 2016; 124: 270-300.)使い方は様々ですが、予防的に脊髄くも膜下麻酔導入と同時に、持続投与を開始する方法がおススメです。
フェニレフリン使用時に注意すべきなのは、徐脈です。
もともと心拍数 60程度の徐脈がある場合は、エフェドリン
もしくは、徐脈と低血圧を伴う場合はアトロピンを使用しましょう。
最近は、ノルアドレナリンの予防的持続投与も使用されるようになってきました。
α作動薬のフェニレフリンとβ作動薬のエフェドリンの両者のいいところどりのノルアドレナリンは、理論的にはよさそうです。
ただ、まだエビデンスが確立されていない状態です。
輸液
2つ目は、輸液です。
輸液は、その種類(晶質液か膠質液)と投与の仕方(preladかcoload)で4つの方法があります。
今まで多くの研究がなされ、現在晶質液のpreloadの劣性が証明されています。
輸液は、膠質液をpreloadもしくはpreloadで急速投与しましょう。
まとめ
血圧の維持は、子宮胎盤血流(つまり赤ちゃんの命綱!)のために必要です。
加えて、低血圧を予防することは帝王切開の質をあげるうえでも重要な役割を果たしていると言えます。
さて、今回は嘔気嘔吐の原因となる低血圧について、その機序と対策をお話ししました。
次は、嘔気嘔吐の原因となる痛みについて、お伝えします。