蕎麦職人に沼った話。
私は不健康そうな男が好きだ。
「ブラック・ジャック」はキリコ派だし、劇場版クレヨンしんちゃんの悪役、ヒエール・ジョコマンを崇拝しているし、忍たまなら斜堂先生、サイボーグクロちゃんなら天童が好きだ。
つまり痩せ型で、鼻筋が通っていて、頬がこけていて、贅沢を言うなら性格も難ありな男が好きなのだ。
先日はその斜堂先生の夢小説を無事に書き終え、ここしばらくは少し原稿から離れる生活をしていた。
長編は約17万文字、短編読み切りは大体13万文字ほど……文字数だけあればいいというものではないが、自分なりに書きたいものは良い感じに書けたのではないか、と充実した気分で過ごす日々の中で、私はほのかにある「気配」を感じていた。
「もうそろそろなにか新しいキャラにハマる気がする」という気配を。
今までオタクとして生きてきた自分の性格からするに、もうそろそろなにか新しいものが書きたくなってうずうずする頃合いだったのだ。
よし、そろそろフォロワーさんからオススメして頂いたゲームを始めようか。
めちゃくちゃキャラデザ好みの不健康男がいるらしいから楽しみだな、と考えていたある日、私は「彼」に一目惚れしたのだ。
その1「登場」
同居人からの布教でGガンダムを完走した私に対し、同居人はまた新たなる布教を重ねてきた。
「Gガンと監督同じだから、ミスター味っ子見てみない?」と。
ミスター味っ子。
「タイトルだけならなんとなく知っているが、内容は正直全然知らない漫画」のひとつかもしれない。
実際私もそうだったのだが、私は同作者の「喰いタン」が好きだったのでその誘いに軽く乗った。
奇抜な発想をする主人公、それに驚くモブと、一口食べただけでなんとも濃いリアクションをする解説役――「焼きたて!ジャぱん」で見たやつだ!
そう、子供の頃に「焼きたて!ジャぱん」を予習していた私にとって「ミスター味っ子」は、所謂「進研ゼミ現象」が多発しまくる作品だったのだ。
こんなのつまらないわけがない!
そうしてあっという間に飽きることなく見ていく内、本編では「七包丁編」というものが始まった。
主人公のミスター味っ子こと味吉陽一くんたちと対立する、「味将軍グループ」という悪の組織っぽいメンバーの内、選りすぐりの四天王……のようななにかが七人おり、それが「七包丁」と呼ばれているらしい。
七包丁の料理人とミスター味っ子が「味勝負」という名の料理勝負をし、それに打ち勝ち味将軍グループの野望を阻止するという流れだ。
そして私が一目惚れした「彼」は、その七包丁の内のひとりとして登場した。
青白い肌に痩せた体躯、長い髪にきつい顔つき――蕎麦職人、武智村正。
なんて最高な不健康野郎!!
彼が登場したその瞬間に奇声を上げ、「やばい!えっ!?マジ性癖刺さるんだけど!?」と画面へカメラを向ける私の瞳には、なによりも熱烈なハートが浮かんでいたかもしれない。
武智村正。
彼の台詞と出番自体はそこまで多いわけではなく、年越し蕎麦をテーマにした2話だけでほぼ出番が終わってしまう。
あまりにも酷い。
あまりにももったいなさすぎる。
こんなに良い不健康悪役をほぼ使い捨てにしてしまうなんて。
「味っ子」では、強そうor悪い料理人と「味勝負」をし、対決し終わった後にはなぜかいつの間にか味方みたいなキャラになっている、というのがよくあるルートなのだが、村正はそのルートに乗ってくれなかったようだ。
(現在進行形で初見を進めているので、もしかしたらワンチャンこの後出てきてくれる可能性を祈っている)
自分の料理に対する絶対的な自信と、それに合わせて相手の料理を見下す態度、孤高の職人であるかのように振る舞っていたくせに、いざ負けそうになると勝負を改めようと「再戦を申し込む!」なんて言っちゃう雑魚な悪役仕草。
カモがネギと鍋と箸と茶碗担いで持ってきた、みたいな感覚です。
性癖のド真ん中を撃ち抜く「村正」というキャラの登場と、「そろそろなにか新しいものを書きたい」という夢女としての欲求が合わさったその瞬間、私の脳内ではある決意が音速で駆け抜けていきました。
「よし、村正の夢小説書くぞ」と。
その2「設定」
「味っ子」の第61話と62話を見たその日から村正の夢女になった私の頭の中は、まさにお花畑という状態になっていました。
外出先で手軽に村正を摂取できるよう、ほぼ1年近く放置していたAviUtlを起動し、同居人が録画していた「味っ子」のデータから村正が出てくる場面だけ切り取って編集し、スマホに入れ、仕事の休憩中に村正を見ては「なんて格好良い……」と眺めてみたり。
ああいう堅物で、神経質で、口下手そうな奴にはぐいぐいアタックしてくる天真爛漫元気っ子ギャルをぶつけたい。
そんなギャルに振り回されて苦労人属性が追加されてしまう推しが見たい。
村正、台詞の中で一人称出なかったから「俺」か「私」かでめっちゃ悩むな……しかし書いてみれば良い感じに決まるはず!
その思いが熱く走り、一目惚れしたその翌日の8月24日にはもう既にギャル子ちゃんが登場する夢小説を1本書き上げていた。
パリピギャルと堅物蕎麦職人……「ジャぱん」に出てくるモニカちゃんと諏訪原みたいな感じで可愛いな……そうだ、ギャル子ちゃんのお仕事はどうしようか、と浮ついた頭であれこれ設定を考え、仕事から帰ったある日、なぜか同居人が深刻そうな顔をしていたのだ。
物凄くなにか言い難そうなその顔に、このご時世では珍しくない倒産か、リストラか、給料カットか、一体どんな話なんだろうかと身構えていると、同居人はとんでもないことを言い出した。
「もしかしたら村正、娘いるかもしれんわ」
その3「発狂」
もうすっかり頭の中では天真爛漫元気っ子ギャルと性格難儀な蕎麦職人、という組み合わせで遊んでいた私にされたその宣告に、私はまずひとつ鼻で笑いました。
「あの顔で既婚子持ちとか嘘でしょ(笑)」と。
(作画が良い62話ならまだしも)お世辞にもモテるようには見えない風体に神経質に拗れた性格、なによりもその顔で子持ち既婚とか嘘でしょ?
しかし同居人は大分昔だがアニメ版「味っ子」を完走している身……しかも記憶力は良い。
そんな彼に言われると正直ちょっと怖くなり、「もういっそ一思いに殺してくれ!」と娘が出てくるという回だけ先に見ることにした。
結果から言うと娘、マジでいました。
ピンク色のスケバン制服、(村正の真似で)なぜかいつも口元には枝を咥えていて、他人の料理へ喧嘩と勝負をふっかける元気な(多分)高校生の娘さんがいました。
しかも村正のことを「とーちゃん」呼びし、自身も村正と同じく料理の道に進んでおり、なにより主人公の陽一くんへ勝負を挑んだ理由は、「陽一くんに負けた父親の敵討ち」という……娘めっちゃ懐いてんじゃん!!
こうして一通り発狂しまくった私に残された道は2つだけしかありません。
「夢女ではなく、ただの推しとしてファンでいること」
「公式設定と折り合いをつけた設定を考え、その方向で夢小説を書いていく」
この2つしかないのですが、書きたいものは書きたいからしょうがない!と決意(というか開き直り)をし、夢女に理解がある同居人に少し相談した結果こうなりました。
それによくよく考えれば「夢小説」というものは必ず恋愛しなきゃいけない、というわけではなく、親子、友人、ライバルなど……「このキャラとこう関わってみたい」「このキャラに自分が考えたオリジナルキャラを掛け合わせてみたい」という「夢」を表現するもの。
なので天真爛漫パリピギャルが自分に懐いて店の常連になって鬱陶しいだけ、という恋愛ではない日常系の路線でも私の中では「自分が書きたい夢小説」なんですよね。
それにもう随分昔の話ですが、「フィニアスとファーブ」に出てくる悪の科学者、ハインツ・ドゥーフェンシュマーツ博士や、「リック&モーティ」に出てくるリック・サンチェスなど、がっつり既婚子持ちのキャラ相手でもNOT恋愛な夢活動をしていた時期があるので、冷静に考えれば村正に娘ちゃんがいても個人的にはあまり支障がないな、と正気を取り戻しました。
その4「飢え」
ということで気を取り直した私は、「そういえば他の味っ子夢女さんはどんなキャラで書いてるんだろう」と気になりました。
まずは手始めに、自分が小説をぶち込むのにお世話になっている「フォレスト+」さんのサーチ欄に「味っ子」と入力してみた。
フォレスト+にいないなら別のところにいるのでは……?と色々探してみた結果。
味っ子夢女さん、もしかしていない……?
いや、夢女界隈では「検索避け」をする文化がある。
もしかしたら本当はたくさん味っ子夢女さんのサイトがあるかもしれないが、この私のサーチ力が足らないが故に見つからないだけかもしれない。
きっとどこかに下仲とか小西とかの夢女さんがいるかもしれない、と思ってずっと探していますが、今のところまだ私のサーチ力の全敗です。
同じ夢女目線で作品の良さを語り合える方にお会いできないのは残念ですが、これからも私は誰に読まれなくともギャル+蕎麦職人、武智村正を書いていくたくましい夢女でありたいと思っています。
という夢女の戯言を最後まで読んでくださり感謝申し上げます。
お粗末さまでした!
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