私自身のプレゼンテーション
優れたコーチが優れたプレイヤーだったとは限りませんが,プレゼンテーションが下手な人にプレゼンテーションを教えてもらいたいとは思わないでしょう.ここまでプレゼンテーション・アドバイスと称して色々と書いてきましたが,私の言葉に説得力を持たせるためにも,少しこれまでの経験を書いておきます.
研究発表・プレゼンテーションのアドバイス
プレゼンテーション・アドバイス(1):プレゼンが成否をわける
プレゼンテーション・アドバイス(2):スライド作成の前にすべきこと
プレゼンテーション・アドバイス(3):スライドの枚数と構成
プレゼンテーション・アドバイス(4):スライド作成時に守るべきルール
プレゼンテーション・アドバイス(5):原稿作成・推敲・練習・練習
プレゼンテーション・アドバイス(6):発表本番時に守るべきルール
プレゼンテーション・アドバイス(7):質疑応答で守るべきルール
ピッチコンテスト優勝
私自身も創業にかかわった京都大学発ベンチャー企業があります.医療・ヘルスケアサービスを開発・製品化しているクアドリティクス株式会社です.
スタートアップとも呼ばれますが,このような小さな会社はピッチコンテストに参加します.ピッチとは,スタートアップが投資家などに対して自社の製品やサービスをプレゼンテーションする機会のことです.とても短い時間で自社を売り込み,資金獲得を目指します.
2019年12月7日に兵庫県神戸市で開催された「スタートアップピッチコンテスト by S5ファンド(神姫バス主催)」において,社長の代理として私が登壇する機会をいただきました.このピッチコンテストのテーマは「路線バス×テクノロジーで画期的な顧客体験を」であり,心拍変動解析を用いた睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングと運転時居眠りの検知を中心に,路線バスの安全性を高め,顧客により大きな安心を与えるためのサービスを提案しました.結果は,見事,優勝です.
ピッチコンテストでプレゼンするのは,これが初めてで,この先もないと思います.つまり,ピッチコンテストの勝率100%です.その程度にはプレゼン技術があります.
ある学会での発表
ある学会で私自身も発表したところ,一緒に参加した学生から「どのような準備をしたのですか?」と質問されました.
私が発表したのは就職を控えた大学院生の研究成果で,広報担当として学生の代理で発表したにすぎません.その学生が修士論文発表会で使用したスライドを譲り受けて,それを学会発表に利用しました.もちろん,修士論文発表会と学会とでは,発表の目的も聴衆も全く異なるので,スライドは完全に作り直しました.学会で学生らが目にしたスライドは,修士論文発表会で見たものとは別物で,そのことに対する驚きもあって,「どのような準備をしたのですか?」という質問に繋がったのだと思います.
発表準備については,今はもう原稿を作成することはありません.スライドだけ作成して,時間調整を目的とした軽い発表練習をするだけです.この学会での発表時間は質疑応答を除いて15分でしたが,本番での発表時間の誤差は数秒程度でした.時間管理も含めて,良い発表ができるようになるために,学生時代から猛練習してきました.初めて学会発表する学生に50回は発表練習しろと言うのも,経験を踏まえてのことです.
発表に関しては経験がものをいいます.場数を踏めば,事前準備にそれほど時間をかけなくてもよくなります.ただ,本題に入る前に世間話を長々と話して,肝心の内容を時間の都合で飛ばしてしまう人もいるのも現実です.そういうプレゼンをする人は,残念ながら,しかし当然なことに,学生を含む若手よりも年長者に多いです.歳をとると批判もしてもらえないので,改善される見込みもありません.若い人は,将来そうならないように,スライドも原稿も完璧に準備する訓練をしてもらいたいと思っています.
© 2020 Manabu KANO.