プレゼンテーション・アドバイス(4):スライド作成時に守るべきルール
スライドを作成するにあたって,守るべきルールを示します.ルールと言っても難しく考える必要はありません.聞いてくれる人の立場になってスライドを作ればいいだけです.
<スライド作成のルール>
1) 各スライドに簡潔なタイトルを付ける.
2) ページ番号を書く.
3) 単色の背景にする.模様やグラデーションは使わない.
4) 文字色と背景色にコントラストをつける.
5) 24ポイント以上の大きな文字を使う.複数の図を1枚にまとめる必要があるなど,文字を小さくしたい場合でも,18ポイント未満の小さな文字は使わない.
6) 文字,図,表などを詰め込みすぎない.空白を活かす.
7) 各スライドの要点を書く.図表だけのスライドにしない.
8) アニメーションを多用しない.特に箇条書きはアニメ化しない.
9) まとめ(結論)は重要なことを箇条書きにする.
10) 「ご清聴ありがとうございました」だけのスライドを作らない.
このルールを守るだけで,拍手喝采を浴びるスライドにはならないまでも,伝えたいことが伝わるスライドになります.それができていれば,スライドとしては合格です.自分らしさを発揮するのは,これらができてからにしましょう.「守破離」を思い出して下さい.まず取り組むべきは「守」です.
それでは,順番に説明します.
各スライドに簡潔なタイトルを付ける
各スライドには,簡潔なタイトルを付けましょう.スライドを見た人が誰でもすぐに,あなたが何について話しているかが分かるようにします.
何枚ものスライドに同じタイトルを付けるのは避けましょう.まったく同じ内容を話しているはずがないのですから,タイトルも変えるべきです.
ページ番号を書く
各スライドには,ページ番号(スライド番号)を書きましょう.そうすれば,質疑応答のときに,質問者が「8枚目のスライドを見せて下さい」というように具体的に要望できます.スライド番号がないと,「あの〜,結果の説明で,従来法と比較しているグラフがあったと思うのですが,そのスライドを見せてもらえますか」「これですか」「いや,それではなくて,もう1枚前だったかな…」といった遣り取りが必要になります.時間の無駄です.
ちなみに,パワーポイントで発表しているとき,「数字」「Enter/Return」の順でキーを押すと,その「数字」のスライドに移動できます.これを知らずに,延々とカーソルキーを押して,アニメーションも逆再生しながらスライドを遡り,時間を無駄にしている発表者を見掛けることがあるので,ここで指摘しておきます.
単色の背景にする・模様やグラデーションは使わない
初心者はいたずらにスライドに格好良さを求めがちです.背景に何かしらの模様を使ったり,グラデーションを使ったりと,凝ったことをしようとします.やめた方が無難です.大切なのは,見やすいスライドにすることです.特に,文字が見やすいことは必須です.そのためには背景は単色が理想的です.
文字色と背景色にはコントラストをつける
文字を見やすくするために,背景を単色にすることに加えて,白地に黒文字のように,しっかりとコントラストをつけましょう.文字が濃い色なら背景色は徹底的に薄く,文字が薄い色なら背景色は徹底的に濃くします.
以前,パワーポイントで白地に緑色の文字を書くと,とても読みにくくなるという問題がありました.多くの人が経験したことがあるはずです.赤や青は大丈夫なのですが,緑は蛍光色のような色だったため,白色の背景に同化してしまうわけです.そんなことはスライドを作成しているときに気付くだろうと思うかもしれませんが,パソコンの液晶モニターで見るスライドと,プロジェクターでスクリーンに投影した映像とでは,色合いが異なります.プロジェクターが暗いと,微妙な色の差はわかりにくくなります.
このようなトラブルを防ぐには,発表本番前に,本番で使うプロジェクターで投影し,映り具合を確認する必要があります.私も,大きな講演会などでプレゼンするときには,事前確認をしています.学会発表であれば,自分が発表するセッションの前に会場に行って,事前に確認しておきましょう.
しかし,ギリギリを攻めるのではなく,十分にコントラストの大きな文字色と背景色を使っていれば,余計な心配をする必要はありません.シンプルにスライドを作成しましょう.
24ポイント以上の大きな文字を使う
スライドを作成するとき,本来なら,プレゼンテーションをする部屋の広さやスクリーンの位置と大きさを考慮すべきです.しかし,学会発表も含めて,会場に行くまではわからないことが多いのも事実です.そうであれば,最悪の場合を想定しておきましょう.例えば,部屋が広いのにスクリーンが低くて小さくて,液晶プロジェクターも古いような場合を想定して,スライドを作成しておくのが無難です.それがリスク管理です.
このような最悪の場合,後方の席からスクリーンの小さな文字は識別できません.だから,大きな文字で書く必要があります.例えば24ポイント以上というのが目安になるでしょう.24ポイントの文字であけば,それで不満に思われることはないはずです.
結果の説明で,比較のために,複数のグラフを1枚にまとめて示す必要があるなど,どうしても文字を小さくしたい場合もあると思います.そのような場合でも,18ポイント未満の小さな文字は使わない方がいいでしょう.あなたが書きたいことを書いたとしも,それを読んでもらえなければ意味がありません.実際,学会などで,グラフ中の文字が読めず,縦軸と横軸が何かわからなかったり,複数の線がそれぞれ何なのかがわからなかったりすることがあります.そういう発表を聞くと,イラッとします.このように,聴衆が読めないような小さな文字で書くと,無意味であるどころか,悪い印象を与えてしまいかねません.それでは,プレゼンの目的を達成することも難しくなります.
文章中の文字は大きくても,図やグラフではとても小さな文字を使って平気な人がいるので,そうならないように注意して下さい.
文字,図,表などを詰め込みすぎない・空白を活かす
スライドの空白は殲滅しろというミッションでも与えられているかのごとく,とにかくスライドに文字や図表を詰め込む人がいます.ダメです.それでは見にくくて仕方ありません.個人差はあっても,人間が受け取れる情報量には限界があります.聞いてくれている人がストレスを感じない程度には,空白を作りましょう.詰め込むと,何が重要なのかも読み取れなくなります.
各スライドの要点を書く・図表だけのスライドにしない
視覚的効果を高めるためには,文章より図表を利用した方が良いでしょう.スライド全体に細かい文字でびっしりと文章が書かれていたら,多くの人は読む気を失ってしまいます.
それでも,文章を書かないでいいわけではありません.結果をグラフで示す場合でも,そのグラフから導かれる結論を簡潔な文でスライドに書きます.そうしておけば,聞いてくれている人が結論を聞き逃しても大丈夫です.また,グラフの横軸と縦軸の説明なども,はっきりと書くようにしましょう.口頭での説明がなくても,スライドだけを見れば発表内容を把握できるくらいに,丁寧にスライドを作成しましょう.
プレゼンテーションでは,発表者が語ることがメインであって,スライドは脇役にすぎない,というのはその通りです.否定しません.でも,発表者が大根役者でプレゼンが下手ならどうなりますか.見栄えのいい写真だけスライドに掲載して,何の説明も書かないで,伝えるべきことが伝わりますか.それほど甘くはないのです.それぞれのスライドで伝えたいこと,これだけは理解して欲しいと思うことは,文字で書きましょう.
アニメーションを多用しない・箇条書きはアニメ化しない
アニメーション機能を利用する場合には,独り善がりにならないように気を付けましょう.箇条書きにアニメーション機能を上手に利用する人もいますが,聴衆のことを考えているとは思えない使い方をしている人が目立ちます.
例えば,項目が5つあって,1つ目から順番にアニメーションで登場させて,その文を読むというスタイルです.多くの場合,5つ目は登場した瞬間に消滅して,次のスライドに移ります.聞いてくれている人に,読む暇を与えないわけですから,控え目に言って最悪です.
聴衆に対して自分の好みに従うように強制するのが良い発表ではありません.各スライドで伝えるべき内容を確実に伝えるにはどうすべきか,この点のみを意識して下さい.そうすれば,アニメーション機能はほとんど不要であることに気付くでしょう.アニメーション機能を使うか使わないか悩むなら,使わないのが賢明です.
まとめ(結論)は重要なことを箇条書きにする
多くの場合,最後のスライドは,まとめ(結論)になります.短くても長くても,何かしらのプレゼンをしたのであれば,その内容をまとめて,伝えたかったことを改めて強調しておく必要があります.
論文であれば結論は文章にしますが,スライドの場合,なるべく簡潔に,箇条書きにしてまとめましょう.
「ご清聴ありがとうございました」だけのスライドを作らない
論文には「謝辞」を書きます.共著者ではないが研究に協力してくれた人や,研究費を出してくれた組織への感謝を述べるための場所です.学会発表でも謝辞は述べます.特に,招待講演のように,これまでの研究をまとめて発表するような機会であれば,共同研究者や卒業生や学生の名前を列挙して,謝辞を述べる研究者も多くいます.
ここで指摘しているのは,そういう謝辞ではなく,会場に来て発表を聞いてくれた人に対して謝意を表すために,「ご清聴ありがとうございました」とだけ書かれたスライドです.不要です.そんなスライドを見せる時間があるなら,まとめ(結論)を見せて,伝えるべきことを伝える努力を最後までして下さい.
「ご清聴ありがとうございました」は声に出して伝えれば十分で,スライドはいりません.どうしても「ご清聴ありがとうございました」をスライドに書きたいなら,まとめ(結論)のスライドの一番下でどうでしょう.
© 2020 Manabu KANO.