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何をしたらいいか理解していない推進者に向けた「いまこそ知りたいDX戦略」

ビッグデータ(Big Data)や人工知能(Artificial Intelligence: AI)と同じで,めちゃくちゃ流行っているし,後れをとるわけにはいかないから,とにかくデジタルトランスフォーメーション(DX)推進室を設置したけど,「何をしたらいいの?」というパターンが見受けられる.やりたいことがあっても,「できる奴がいない!」というケースもある.

本書「いまこそ知りたいDX戦略」では,パロアルトインサイトCEOとして顧客のAI&DX導入を支援してきた著者が,その豊富な経験を踏まえて,DXあるある問題とその解決方針を示す.

いまこそ知りたいDX戦略
石角友愛,ディスカヴァー・トゥエンティワン,2021

猫も杓子もDX!の日本企業だが,「検討中」という圧倒的な声の他に,「DXに成功した」とか「DXによって業績が劇的に良くなった」という話はほとんど聞かない.つまり,例外を除いて,どうもうまくいっていないらしい.

日本企業のDXが失敗する最大の理由として著者が指摘しているのは,

「DXとはいったい何を指すのか」について,経営者やDX担当者が共通言語を持っていないこと

である.共通言語という表現は曖昧で,要するに,デジタルトランスフォーメーション(DX)が何かすら理解せずに,経営者やDX担当者がDX推進!と叫んでいるからダメなのだとの指摘だ.

現場で手書きで記録していたものを,エクセルか何かで記録するようになれば,これは凄い進歩だ.デジタイゼーションだ.しかし,アナログからデジタルへ変化しただけでは十分ではない.どうせ活用しないなら,アナログでもデジタルでもどちらで記録しても大した差はない.その情報を活用しなければならない.これがデジタライゼーションだ.そして,昨今DXと呼ばれているもののほとんどは,このデジタライゼーションだろう.

しかし,そうではないと著者は指摘している.

DXとは,ツールの導入を行うといった局所的なIT導入のことではなく,デジタル技術を採用した根本的なビジネスモデルの変換を指す
「会社にとってのコア」を再定義し,それをデジタル化することが,DXの本質である

「会社にとってのコア」を再定義しろと言われても難しいだろう.そこで,いくつかの例が挙げられている.

環境意識の高いアウトドア製品でお馴染みのパタゴニア:サステイナブルなサプライチェーンマネジメントに基づく製造販売

mRNAワクチン開発でお馴染みのモデルナ:生物学に携わるITカンパニー

「デジタライゼーションにより実現された新たなビジネスモデルとコアビジネスのデジタル変革を恒久的なものへと変える」ことがDXであり,それは人や組織の変革を伴う.デジタイゼーションとデジタライゼーションはデジタルトランスフォーメーション(DX)実現の必要条件であって,そのものでも,十分条件でもない.ここで勘違いしている人が多い.DXを成し遂げたいなら,目的と手段を取り違えてはいけない.

DXが何であるかを適切に理解したとして,DXを進めたいという顧客が抱えるよくある問題として著者が挙げているのは次の3つの壁だ.

「何から手をつけていいのかわからない」
「なかなか実現フェーズに進まない」
「リソースが足りない」

本書「いまこそ知りたいDX戦略」では,事例を交えながら,この3つの壁の原因と解決策を説明しているので,いずれかの壁にぶつかっている人には参考になるだろう.何をしていいかわからないレベルの組織から,POCを回してばかりの組織,そして人材難に困っている組織まで,何かしらのヒントが得られるかもしれない.

著者は,アメリカで最高のDX成功者として,Netflix(ネットフリックス)創業者のリード・ヘイスティングを挙げている.今朝のニュースでは,オリジナルコンテンツ「イカゲーム」の視聴世帯数が1億を超えて絶好調で,最高益を更新したと報じられていた.だが,Netflixは元々DVD郵送ビジネスの会社だ.レンタルビデオショップ全盛期の1998年に定額のDVD郵送サービスを開始した.その後,ブロードバンドの普及にあわせて,ストリーミングサービスを開始した.そして今や,世界を代表するコンテンツ企業だ.膨大な顧客の視聴情報を解析して,新しいコンテンツを生み出している.見ている本人は気付いていないかもしれないが,顧客は常にテスト対象になっており,どの俳優を起用するかといった判断に情報が活かされている.

ビジネスモデルが変化しただけではない.会社に新規事業を産み育てる土壌がなければ,成功はない.Netflixはそのような土壌をつくるために,以下の4つを徹底したそうだ.

1.反対意見を育てる
2.大きいアイデアは必ずテストから始める
3.全社員がそれぞれの範疇で意志決定ができるようにする
4.うまくいったら祝う.失敗したら光をあてる

本書「いまこそ知りたいDX戦略」には,ここで触れたもの以外にも,DXを推進するために必要なことが色々と書かれている.例えば,現実的な期待値を持つこともその一つだ.妄想による途方もない期待値を経営者や担当者がもっていると辛い.

© 2020 Manabu KANO.

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