【不妊治療】着床前診断~胚を「毟って」大丈夫なのか?
着床前診断(PGT-A)は
「移植前に当たり/ハズレがわかる」
という非常にパワフルな手技であります。
が、
①(モザイク現象による)誤診の可能性
(=赤ちゃんになる胚を捨てている可能性)
②生検する(「毟る」)ことによる胚へのダメージ
という問題が内在していることが指摘されています。
本稿では②について、現在(2024/10)出ているデーターをアップデートしておきたいと思います。
よろしければお付き合いください!
【目次】
1. 出生前診断で生検する部分
2. 胚自体にダメージは本当にないの?
3. (妊娠した場合)胎盤がおかしなことにならないの?
4. 総括
1. 出生前診断で生検する部分
着床前診断を行うに際し、胚の一部を「毟り」ます(生検と言います)。
現在では通常胚盤胞になった胚で検査を行います。
胚盤胞ではすでに「将来赤ちゃんになる部分(ICMと呼ばれます)」と「将来胎盤になる部分(TEと呼ばれます)」に分かれており、生検はTE(将来胎盤になる部分)を毟ります(「TE生検」なんて呼ばれます)。
さすがにICM(赤ちゃんになる部分)は(普通は)生検しません。
でも、
「胎盤になる部分だからって、毟っちゃって大丈夫なの?」
という懸念もあるわけです。
①胚自体にダメージは本当にないの?
②(妊娠した場合)胎盤がおかしなことにならないの?
という懸念ですね。
次章以降で今日現在(2024/10)の見解を見ていきましょう!
2. 胚自体にダメージは本当にないの?
この懸念に対しては、2021年のアメリカ生殖医学会誌にメチャメチャ凄いデーターが出ています!
(リンク先はこちら)
この論文は何と
・普通に体外やってる人たちの出来上がった胚盤胞を
・生検だけして、検体は検査に出さないで取っておいて
・普通に形態(見てくれ)で移植胚を選んで胚移植して
・妊娠結果が出た後に、事後で着床前診断(PGT)の解析をしてみた!
という、参加者には何の得があるのか?(いや、むしろ毟られるだけ損しているのではないか?)研究でございます!
この研究参加者は「毟られただけ群」になるわけなので、普通の体外やってる人のデーターと比較すると、「毟ること」でどう変化するのか?のデーターとなる、というわけです。
その結果がこちら!
青が今回の研究参加者=「毟った群」
オレンジがコントロール、すなわち普通の体外の群
です。
はい。
僕もこの論文見たときはビックリしました。
このデーターは着床率で見ていますが、少なくとも着床までは
「毟ったダメージは出ていない」
という結果なわけです
研究方法が特異なデーターだけに、なかなか有意義な情報ですね。
3. (妊娠した場合)胎盤がおかしなことにならないの?
着床前診断は
「赤ちゃんになる部分が毟れないなら、胎盤になる部分を毟ればいいじゃない」
というコンセプトの検査なわけですが、じゃあ、
「胎盤になる部分なら毟って大丈夫なのか?」
という疑問点が出てくるわけです。
胎盤の機能不全は、妊娠中の様々な疾患(合併症)に関与していることが知られてますので、
着床前診断→胎盤機能不全→妊娠中に変なこと起きるのでは?
という懸念がもたれており、実際に
「怪しい・・・」
とする論文も出てきています。
しかしながらこれらの論文は小規模だったり、研究デザインの問題から「確たるエビデンス」と言えるレベルの結論が出ずに「モヤッと」した状態でした。
この状況下、
「今まで出てきた小規模な報告群を『足し算して』検討してみようぜ」(注:メタアナリシスと言います)
という報告が出てきました。
(リンク先はこちら)
本論文では
周産期合併症として
・早産
・帝王切開率
・妊娠高血圧症候群
・前置胎盤
・前期破水
・妊娠糖尿病
・産後出血
を、新生児の状態として
・出生児の体重
・先天奇形
・NICU入院率
を調べてみたところ、何れも有意差は出なかった、とのことで(「確証ある」というところまではいきませんが、一旦は)安心感のある結果でした。
4. 総括
ということで、着床前診断で行われるTE生検についての安全性について、本日(2024/10)現在の見解を見てきました。
すなわち
「胎盤になる部分だからって、毟っちゃって大丈夫なの?」
という懸念、
①胚自体にダメージは本当にないの?
②(妊娠した場合)胎盤がおかしなことにならないの?
に関して、
「今の所、安心感のある状態」
と言えるかと思います。
ただしあくまで「今の所」ですので、今後のデーターも注視していきたいと思います
X(旧twitter)で速報版のお勉強を不定期で行っていますので、お付き合いいただけましたら幸いです!
(リンクはこちら)
ノシ