夫とトイレットペーパー
私の夫はお笑い芸人(ただし有名でない)である。
結婚するまで親戚にも友人にもお笑い芸人がいなかったので、具体的にどんなことをしている人なのかわからなかったが、結婚した今も具体的な業務は謎に包まれたままだ。
私はただのしがないパート医師なので、もちろん相方などいない。
ビジネスパートナーがいる感じには憧れることもあるが、少なくとも夫をそれにするのはちょっと嫌だな、と(妻なのに)思う。
結婚したばかりの頃、わが家のトイレで怪奇現象が観察された。
2つ横に並んでホルダーにおさまっているトイレットペーパーが、なぜか同時に減っていくのである。
もちろん夫だ。他に誰もいない。
今までの自分の価値観とは合わないが、なるほど彼は奥側のホルダーから使っているのかしらと思い、自分も遠いほうのホルダーのペーパーを使うようにしたがそれでも同時になくなるのだ。
おかしい。
何か法則があるはずとときどき2つのロールを入れ替えたり、多く残っている方のロールの切れ端を取りづらいように奥にしまったりしてみたが変わらない。
数か月暮らしたあたりで夫にそれとなく聞いてみた。
「トイレットペーパー、どっちから使ってる?」
「え、多い方から使ってるよ~」
なぜだ。
なぜ同時に使い切ろうとするのか。
2つ並んでいるのだから、明らかに一方は予備であろう。
「いや、なんとなく、カレーのルーとライスをバランスよく食べ進める感じで…」
なぜバランスを取るのだ。
2つ同時になくなってしまった時に便座に座っている人間の気持ちを考えたことはないのか。
そもそもどちらも同じペーパーなのだから、どちらもライスだろう。(白いだけに)
今日もトイレットペーパーはバランスを取られながら減ってゆく。
願わくば、同時になくなった時に座っているのは夫であってほしいと願うばかりだ。