【アトピー性皮膚炎】 病気を知ることでQOLを上げる 一般向け 2024年4月更新
この記事の内容は、公益社団法人日本皮膚科学会を中心に作成されたアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021をベースに、実際の診療での知見を組み合わせたものになります。
この記事が「アトピー性皮膚炎に悩む患者さんのQOLが上がるきっかけ」になったら嬉しいです。最後に、スキやコメントいただけると大変嬉しいです。
医療者向けの情報をわかりやすく発信することを目的としています。
第1章 アトピー性皮膚炎の概要
アトピー性皮膚炎は悪くなったり、良くなったりを繰り返すかゆみのある湿疹を主な症状とする病気です。患者さんの多くはアトピー素因を持つとされています。
アトピー素因というのは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎などの家族歴やこのような病気に自分がかかっていた、もしくは、体質的にIgE抗体という抗体を産生しやすい人の事です。
アトピー性皮膚炎は皮膚疾患の中ではとても多い病気です。様々な研究がされていますが、どうしてアトピー性皮膚炎になるのか、また、アトピー性皮膚炎という病気についてはまだ不明なところが沢山あります。アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021(日本皮膚科学会)には、アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含めた多病因性の疾患と書かれています。
まとめ
アトピー性皮膚炎はかゆみのある湿疹等を繰り返す皮膚疾患
アトピー性皮膚炎の原因はハッキリ分かっていない
第2章 治療の重要性と目的
アトピー性皮膚炎はアトピー素因やIgEを産生しやすい体質、皮膚のバリア機能の低下などを背景としてアレルギー性や非アレルギーの炎症が起こります。その症状は湿疹です。
治療法の基本は3つあると考えています。基本として、患者さんと向きあい、以下の3点を組み合わせた治療を行います。
悪化要因の除去
皮膚のバリア機能を正常化させるための「スキンケア」
薬物療法
治療の目標
日本皮膚科学会などによるアトピー性皮膚炎診療ガイドラインが2021年に改定され、治療の目標が次のように書かれています。
アトピー性皮膚炎によって、患者さんのQOL(Quality of Lifeの略:人生・生活の質)は著しく低下します。小さい頃からの皮膚の炎症を抑え、アレルギーマーチを予防することが大切です。
1990年代後半にステロイド外用薬についての害を心配するあまり、必要な治療を受けないまま、アトピー性皮膚炎が重症化してしまう方が多くいらっしゃいました。必要な正しい治療を出来るだけ、早く行うことでかゆみや湿疹に苦しむアトピー性皮膚炎の患者さんたちのQOLが向上したら良いと考えています。
アレルギーマーチの説明
まとめ
治療の基本は3つ。悪化要因の除去・スキンケア・薬物療法
アトピー性皮膚炎の治療のゴールは「症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること。」
第3章 アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因は、まだ十分に分かっていないのですが1つには、皮膚のバリア機能が低下することで、皮膚の乾燥などが起こり、そこにアレルゲン(ダニやほこり、食べ物など)が侵入したり、ストレスなどの環境的要因が重なって起こると言われています。
まとめ
アトピー性皮膚炎の原因は、まだ十分に分かっていません。
第4章 アトピー性皮膚炎の主な症状の特徴
症状の特徴
肌の乾燥傾向
痒みのある湿疹
例えば、時間の経過と共に下記の症状があります。
肌が赤くなる
ジクジクして液が出る
ボロボロと皮が剥ける
上記を繰り返して皮膚が硬くなる(苔癬化)
好発部位 - 病変が起こりやすい部位
時期によって好発部位が異なります。
乳児期
顔
四肢屈曲部
幼児期から学童
頸部
四肢屈曲部
思春期から成人期
顔
頸部
上半身
アトピー性皮膚炎の多くは1歳未満で発症すると報告されています。また長期間、アトピー性皮膚炎を患っている患者さんは10代から30代の期間において、白内障や網膜剥離などが起こりやすいこともあります。
まとめ
発育時期によって好発部位が異なります。
第5章 診断基準
日本皮膚科学会の診断基準では、下記の3つの要件を満たしたときにアトピー性皮膚炎と診断されます。
痒いこと
特徴的な場所に典型的な湿疹があること
慢性的で反復性がある。例えば、乳児では2ヶ月以上経過治らないなど。
日本では、日本皮膚科学会の診断基準に基づいて診断されていることが多いのですが、 欧米ではUKWP(The U.K. Working Party)の基準を用いて、新生児期よりアトピー性皮膚炎と診断し、治療をしているそうです。日本でも、国立成育医療研究センターなどでもUKWPの基準を用いてアトピー性皮膚炎と早期に診断をし、 治療介入されているそうです。
アトピー性皮膚炎の定義にもありますが、皮膚の生理学的異常があるため、保湿をしてバリア機能を維持することも大切です。 生後1ヵ月から保湿剤をしっかり使うと、皮膚のバリア機能が正常化し、皮膚からアレルギーの原因になる物質が侵入しにくくなります。結果として、アトピー性皮膚炎の予防になるということを伝えている研究もあります。
ただ、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021では、新生児期の発症予防に保湿剤外用は一概には、勧められないと改定されました。保湿をすることは、皮膚のバリア機能を正常化し、アレルゲンの侵入を阻みます。それ以外にも順天堂大学 浦安病院とともに研究を進める環境医学研究所によれば、痒みの原因は乾燥肌に由来しており、この痒みの治療には紫外線療法や保湿剤の塗布も効果的であると言っています。
まとめ
「痒いこと」「特徴的な場所に典型的な湿疹があること」「慢性的で反復性がある」の3要件を満たすと日本皮膚科学会の診断基準では、アトピー性皮膚炎と診断されます。
第6章 診断方法
アトピー性皮膚炎では症状と経過によって診断されます。そのため検査などを行う主な目的は診断の参考にするためとどのような特徴。例えばアレルギー物質は何かなどの把握のために行います。
アトピー性皮膚炎のバイオマーカー
アトピー性皮膚炎の判定に参考になる指標として、次のバイオマーカーがあります。一例です。
総IgE 値
好酸球数
TARC 値
特異的IgE 値
第7章 アトピー性皮膚炎の治療
前提として
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021では、治療方法を推奨度の数字(1もしくは2)とエビデンスレベルの(A, B, C)の組み合わせで表記しています。
推奨度
学会が勧める強さです。1と2があり、1が一番強く推奨しています。
エビデンスレベル
学会が推奨するときに参考にする臨床試験の結果です。Aが最も良い臨床試験があると評価されています。
ステロイド外用薬 - 外用薬
推奨度 1
エビデンスレベルA
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の治療の基本となる薬剤です。ステロイド外用薬の強さを把握し、患者さんごとに必要なステロイド外用薬を選択し、炎症を十分に抑え込みます。
ステロイド外用薬の使い方にも変化してきています。昔は症状が現れたときに、ステロイドや保湿剤を使っていましたが、10年くらい前から症状が治っても間隔を空けながらステロイド外用薬を使い続けるプロアクティブ療法も行われるようになっています。
プロトピック軟膏 - 外用薬
推奨度1*
エビデンスレベルA**
日本では、1999年にステロイドとは異なるメカニズムで作用するプロトピック軟膏0.1%が使用可能になりました(16歳以上)。 2003年には、顔にも使える小児用のプロトビック軟膏0.03%が2歳から15歳までの小児に認可されました。
プロトピック軟膏はステロイドではないのですが、皮膚の痒みや炎症を抑えてくれる効果の高い外用薬です。体に起こる過剰な免疫反応を抑えることで効果を発揮します。ステロイド外用薬ではないので長期間使用してもステロイド外用薬の長期使用で起こりやすい皮膚萎縮や毛細血管の拡張などの副作用は起こりにくいとされています。
プロトピック軟膏の特徴として、成分の分子量が大きいので、皮膚の状態の悪いところから吸収され、皮膚正常の皮膚からはほとんど吸収されないと言われています。目の周りにも使えますが、粘膜には使えません。プロトピック軟膏を塗ると刺激感(ヒリヒリ感)があります。これは有効成分が吸収されて、知覚神経に作用するためです。
抗ヒスタミン薬 - 内服薬
推奨度2
エビデンスレベルB
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021によると抗ヒスタミン薬の推奨度が変更になり、推奨度が下がりました。
シクロスポリン - 内服薬
ネオーラルとも呼ばれることもある免疫抑制剤です。
推奨度2
エビデンスレベルA
2008年にアトピー性皮膚炎の既存治療(ステロイド外用薬、プロトピック軟膏)で、十分な効果が得られない方への適応が追加されました。自己免疫抑制剤に分類される薬です。 強い炎症伴う湿疹が体の30%以上に及ぶ16歳以上の患者さんに対して適応されます。
光線療法
推奨度2
エビデンスレベルB
皮膚に紫外線の一部の波長を当てる治療で、アトピー性皮膚炎以外にも円形脱毛症・乾癬・白斑などの皮膚疾患に効果が見込めるとされています。UVBで有効な波長だけを取り出した治療がナローバンドUVB療法とエキシマライト療法になります。
このナローUVB療法は20年前から行われています(保険治療内)。エキシマライトによって、限られた部分に当てることも、より強力な紫外線治療として出来るようになりました。こちらも健康保険内で診療できます。
第8章 アトピー性皮膚炎の新しい治療
繰り返しになりますが、アトピー性皮膚炎の治療の基本は
悪化要因の除去
スキンケア
薬物療法
3.の薬物療法は近年、新しい薬の影響で変わってきています。薬物療法の第一選択薬はステロイド外用薬と保湿剤です。2021年にアトピー性皮膚炎診療ガイドラインが改定され、新たな薬が登場しています。
承認されたアトピー性皮膚炎の治療薬
2024年1月18日に、アトピー性皮膚炎の新薬が承認されました。イブグリースという注射です。こちらも皮下注射となります。適応としては、従来の治療では十分な効果が得られない成人の方や12歳以上、かつ体重40kg以上の小児アトピー性皮膚炎の方となります。
こちらは、アトピー皮膚炎に使用する4製品目の生物学的製剤となります。副作用が少なく、効果の高い新薬がどんどん発売され、もっと薬価が安価になっていくと良いと思います。
承認された薬とその分類
承認された新しい薬は炎症性サイトカインという物質に作用し、痒みや炎症が生じてくる前に抑え込む薬となります。
生物学的製剤
炎症性サイトカインが細胞に付着するのを直接的に抑える働きの薬です。
JAK阻害薬
炎症性下院の情報伝達に必要なJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素の働きを抑えてくれる様に作用します。
PDE4阻害薬
炎症性サイトカインの賛成を抑えてくれるcAMPという物質をPDE4という酵素が分解してしまうため、このPDE4という酵素の働きを抑える様に作用します。
第9章 アトピー性皮膚炎の新薬 エビデンスレベルと推奨度
推奨度
学会が勧める強さです。1と2があり、1が一番強く推奨しています。
エビデンスレベル
学会が推奨するときに参考にする臨床試験の結果です。Aが最も良い臨床試験があると評価されています。
デュピクセント
推奨度1・エビデンスレベルA
コレクチム軟膏
推奨度1・エビデンスレベルA
オルミエント
推奨度1・エビデンスレベルA
このように、2021年のガイドラインでは新薬の使用を強く推奨している結果となっています。これ以降に出ているものは次のガイドラインに推奨度やエビデンスレベルが書かれてくるはずです。実際にクリニックでも使っていますが、薬価が高い(3割負担の方で1ヶ月あたり4万円程度)のが問題ですが、推奨度とエビデンスレベルが高いだけあり、良い薬です。
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