【極短編】クプクプナイトメア【ホラー小説】
俺は先日41歳となった。
気がつけばバカボンのパパと同じ歳か……俺もまごうことなきジジイだなと感慨にふける。
歳の近かった親戚や友人たちのほとんどが家庭を持ち、息子や娘が高校生、社会人となった者もいる。
しかし俺は変わらずの独身。
着の身着のままな生活を続けていた。
別に結婚したくないわけではない。
かと言ってモテないわけでもない。
彼女はいるが、ただただなんとなくこのままでも良いのでは?
と変わらぬ日常がいつまでも続くだろうと甘く考えていただけだ。
そんな考えのせいで、俺の元を去った彼女も多い。
ただそろそろ俺も家庭を持つべき時だと考えている。
俺は付き合っている彼女を親父に紹介しようと実家へと帰ることにした。
数年ぶり……いや10年ぶりだろうか……。
俺が彼女を連れて帰省するというのを聞きつけてか、家には歳の近い親戚や友人たちが集まっていた。
すぐに宴が始まる。
お前にはもったいないくらいのいい子じゃないかと誰かが俺に言う。
確かにこんな俺相手についてきてくれるこの娘はきっと良い子に違いないと俺自身も頷く。
どっと笑いがおき、酒の進みも早くなった。
どんどんと時がすぎ気がつけばあたりは暗くなっていた。
時計の針は深夜となる時間を指している。
もうそろそろ宴もお開きかと思い始めた矢先、誰かが、俺の彼女に不思議なことを話し始めた。
「なあ?あんたクプクプって知ってるかい?」
クプクプ?彼女は知らないと首を横に振った。
「ここいらの昔話でクプクプって怪物がいてな、そいつはいつまでもワガママを言い続ける子どもの前に現れて、とって喰っちまうんだ」
俺はそんな昔話なんて聞いた事がない……どうせコイツが作ったホラ話なんだろうと思っていた。
が、部屋の窓に得体のしれない物が写っている。
ピンクとも紫とも言えぬ色のパックマンのような巨大な口の様な頭の化け物。
巨大な頭に似合わぬ不気味に小さな目。
首から下は人の形をしているが毛のないツルツルとした青い体をしている。
そいつが窓越しにこちらを覗き込んでいる。
俺だけでなく部屋の中にいた奴らも気づき驚くものもいた。
「クプクプだ……」
誰かがそうつぶやく。
クプクプは窓に体を寄せながら隣の窓、壁、そしてまた窓へと往復し不気味な動きを見せていた。
まるでホラーゲームに出てくるモンスターが主人公を追いかける際に壁にぶつかることを気にせず向かって来るような不自然な気持ち悪い動き……。
奴は窓や壁を開けたり破ることは出来ないようだ。
「おいおいどうせ誰かが驚かそうと変装してるんだろ?いいよ!お前も入って飲もうぜ!」
窓の近くにいた男がそう言いながら、窓の鍵をあけ開いた。
なぜだかわからないが俺は直感的にこれは危険だ終わったと感じた。
クプクプは開かれた窓から身をよじいれると近くに立っていた男の上半身をバクリと齧り取った。
男はあっという間に上半身を失い下半身だけがそこに残った。
皆の悲鳴やら慌てふためき逃げる姿が目にうつる。
もう何をしたって無駄だ。
俺は直感的に確信してしまった。
こうなってしまうともうゲームオーバーなのだと。
クプクプは次々と人を喰っていく。
その様子を見ながら俺はふと気づく。
ここはどこだ?
実家と思い過ごしていたが、ここは俺の知る場所ではない。
周囲にいるこいつ等は?
親戚や友人と思っていたが見覚えのない奴らばかりだ。
そして彼女は?
俺は彼女の方を見やる。
彼女は俺を見てニタリと笑った。
コイツは誰だ?
よくよく見るとこんな女全く知らない……。
俺の目の前にクプクプがやって来る。
奴は大きく口を開き俺の上半身を飲み込む。
俺の視界は真っ暗となりブツッと大きな音と共に天地が逆転する感覚を得る。
ああ、俺はクプクプに飲み込まれたのか……。
一体なんでこんなことに……。
ふと誰かもわからぬ男が言っていた事が頭によぎる。
「いつまでもワガママを言い続ける子どもの前に現れて、とって喰っちまうんだ」
これは俺が誰かに迷惑をかけ続けた罰なのだろうか?
俺はとんでもない世界へ迷い込んでしまった。
後悔してももう遅い。
俺の意識は暗く薄く、クプクプの中へと溶けていく……。