【ふしぎ旅】応化の橋
新潟県上越市に伝わる話である
森鴎外の小説「山椒太夫」や童話「安寿と厨子王丸」で知られる話なのであるが、どうにもやり切れない話である。
騙されて奴隷として売られた姉弟と生き別れになる母と乳母。
乳母は、自殺。
姉も奴隷になった弟を逃がすために命を落とす。
生き別れとなった母は、盲目に。
弟の対子王丸は、出世して、仇の山荘太夫を討ち、奴隷解放を行い、母ともめぐり合い、それで盲目になった母親の目も治った。
ということで、最後だけハッピーエンドだが、よくよく見てみると、騙され奴隷として売られ、その過程の中で4人の内、2人が命を自ら落としているのだから、かなりの悲劇である。
日本版の「それでも夜は明ける」(誘拐され奴隷として売られた自由黒人が過ごした12年間の奴隷体験記を映画化したもの)ぽくもあるが、こちらは創作らしく、領主の家族が奴隷にされるなど、よりドラマチックな話となっている。
悲劇をベースとして、最終的には、自分を騙して奴隷とした者のかたき討ちをするという勧善懲悪のラストにもってくるというベタな展開が、あまりにも上手く出来すぎていて、これは娯楽のために創作されたモノではないかという感すらある。
さて、しかしこれを創作とするならば、不思議な点がある。
安寿姫と対子王丸の供養塔とやらは誰のために作られたかということだ。
実際に供養塔に訪れてみると、小さな神社(琴平神社)の一角にあり海へ注ぐ直前の川の脇にそれはある。
橋の整備などの際に、移動されたということであったが、古いものだということは分かる。
キチンと手入れはされてきたようで、大きく損傷しているというところはない。
供養塔などが、残っているのだから、話そのものはフィクションであっても、何かしらモデルにした事件などがありそうなものだが、そうでも無さそうだ。
調べてみると、この「安寿姫と厨子王丸」の話に地名が書かれていることもあり、この安寿姫と対子王丸の供養塔や安寿姫の塚など、各地に所縁の地が残っている。京都のあたりには、山椒太夫の屋敷跡などもあるそうだ。
創作物に実際の地名が記されており、そこにその創作物にまつわるものがあると、奇異なことに一瞬聞こえるが、さにあらず。
現代でも「聖地巡礼」なるものがある。アニメやマンガ、小説などに描かれた場所を訪れ、そこには、その創作物のパネルなどが飾っていることもチラホラある。
実際に、存在しない者を弔うことだって、漫画「あしたのジョー」のキャラクター”力石徹”の葬式が大々的に行われたではないか。
「創作物と現実の間を揺蕩う」
案外と、人間は昔から、そのようなことが好きなのかもしれない。
そのような視点から、この「安寿姫と厨子王丸」の話を読むと、ストーリーとは違った面白さがある。
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