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「デュピルマブでカサカサ肌は治らないから 保湿さぼっちゃだめですよ」
僕もアトピー 性皮膚炎ADで,小さな頃から汗や化繊やストレスで赤くかゆくなる皮膚とつきあってきましたが,はて,これはどうして他の人と違うのだろうかということがずっと心の中にあります.
だれも答えを教えてはくれず,ただ薬を塗りなさい,掻かないようにしなさいと言われてきました.人とは違うこの弱い厄介な皮膚に,向き合うことも立ち向かうこともできず,もやもやを抱えながら,なんとか折り合いをつけながら生きてきたのだと思います.
フィラグリン遺伝子の異常がADの原因の一つといわれるようになり,「アトピー 性皮膚炎はアレルギーです,原因をつきとめて治しましょう」という考え方から「弱くて敏感な皮膚をもって生まれちゃったのだから,受け入れてどうするか考えましょう」に変わっています.なので,生まれつき弱い皮膚を少しでも補い守るために,痒みがなくても,毎日風呂上りには必ず保湿しないといけませんと言われるようになったわけです.
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皮膚はどうやってできているかというと,レンガとレンガを接着剤でくっつけて壁を作るように,表皮細胞と表皮細胞を接着剤くっつけて作られています.「弱くて敏感な皮膚」とは,その接着剤が不良品であるため,壁の強度が弱くなっている状態です.この状態が赤ちゃんの頃からあると,家の中の湿度,室温が外に漏れ出てしまうように,皮膚の水分が外に漏れ出て乾燥肌になります.台風などが来た日には壁から雨風が入ってくるように,汗や化繊や食べ物の刺激が中に入ってきてしまうのです.そんな壁の家に住んでいたら,なんとか補強したり,すぐに対応できるように準備しますよね,皮膚もその刺激にすぐ対応できるように免疫機能で準備していきます.すぐ反応できるようにして,反応が強くなっていきます.こうして,アトピー性皮膚炎の免疫異常アレルギー反応が作られていくのです.
さて,2年半前に始まったこのデュピクセントという注射薬は,IL-4, IL-13(ヘルパーT細胞が出すサイトカイン)という指令を強力に止める作用があります.つまり,小さい頃から培ってきた皮膚免疫異常アレルギーを止める働きがあるわけです.
ただ,今のところ,ADの原因が,卵が先か鶏が先か,皮膚バリア機能が先か免疫異常アレルギーが先か,という命題に決着がついておりません.
そこで,僕はこう考えました.「もし皮膚(壁)の強度までよくなるのであれば,アレルギーが黒幕で皮膚は被害者,逆に皮膚まではよくならず,症状だけ改善するのであれば,皮膚バリア機能が先でアレルギーは被害者.」これが研究室でなくとも,もしかすると少しわかるんじゃないか...
2週間毎に,8人の患者さんのTEWL,SCH,EASI,POEMなどを,6ヶ月間取り続けました.(一人は発汗が強く,SCHの低下のないpopulationで,データ解析から外しました.ADの中にもまだまだ分けなくてはいけないサブタイプがあるのだと思います.)ちなみに,IgEは1ヶ月毎に着実に低下し,sIL-2Rは下がりません.
結果としては,「TEWL(水分がどれだけ外にでてしまうか)はよくなったけど,SCH(皮膚の乾燥)はよくならなかった」というものでした.
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この結果を鵜呑みにすれば,弱くて敏感な皮膚が先で,皮膚アレルギーが後ということになるのですが,症例数も少なく,半年間であり,デュピルマブが完全にアレルギーを抑えきるとはいえないなど様々なツッコミ所がありますので,もちろん結論はでません.でも,この結果は動かせない事実で,どう解釈しどう生かすかを考えていく必要があるのだと思います.
少なくとも我々皮膚科医は,デュピルマブを投与したら終わりだと考えてはダメで,よくなっている間に,スキンケアの成功体験を患者さんに経験してもらう必要があるということが,この論文のメッセージと受け取っていただけると嬉しいです.