フィラグリン遺伝子異常があると どうしてアトピー性皮膚炎が発症するのか②
ひとのからだでは,遺伝子の設計図情報を基にからだの部品となるたんぱく質が作られ,それがつなぎ合わされることで臓器ができています.フィラグリン遺伝子を基に作られるフィラグリンタンパクは,皮膚の一番固い角質の成分であるケラチン線維をくっつける作用があります.つまり,角質と角質をくっつける接着剤の役割をしているのです.家の壁をレンガで作る時に、不良品の接着剤を使うのと似ています。
さて,その接着剤の力が弱いと,何が起こるのでしょうか.
異常のない皮膚では,様々な刺激をはね返す力があり,これを『皮膚バリア機能』といいます.しかし,角質と角質の接着剤の力が弱いと,例えば,汗やよだれなどの①刺激が簡単に皮膚の中に入り込んでしまいます.これが一つ目の異常です.入る方が簡単であれば,出る方も簡単で,皮膚の中にため込んでおかないといけない水分がどんどん外に出て行ってしまいます.それにより乾燥肌『ドライスキン』になります。
異常のない皮膚では,何か人にとって有害なものが皮膚につくと,それを排除しようとする反応が起こり,これを『かぶれ(接触皮膚炎)』と呼びます.アトピー性皮膚炎の人は生まれたときから,様々な部位でこの接触皮膚炎が生じます.さてそれが赤ちゃんの頃からずっと刺激が入り続けると,どうなるでしょう.
例えば,異常のない皮膚が平和な日本,アトピー性皮膚炎の皮膚が中東の内戦地域と考えるとわかりやすいかもしれません.長い間攻撃をうけている内戦地域は,前線に兵隊が常駐し,攻撃されたらすぐに反撃できるように配備されています.平和な日本ではほとんど攻撃を受けないので,兵隊を配置する必要がありません.小さな刺激で,前線の兵隊は反撃を開始し,また,それがなかなか収まりません.これが,ちょっとした刺激で皮膚炎が生じ,赤くなり痒くなり,薬を塗らないとなかなか沈静化しない理由です.これを②皮膚免疫過剰反応といったりアレルギー炎症といったりします.これが二つ目の異常です.
そして、前線での異常をできるだけ効率的に察知するために、神経というレーダーができるだけ前線に伸びていきます。それによって、弱い刺激でも効率的に脳に伝える機能を持ちます。これが③つ目の異常です。
これはまだ、それほど多くの研究者が研究しているわけではないですが、かゆい部分をかいたときに、脳のギャンブルで当たった時と同じ部分が活性化することが分かっており、報酬系と呼ばれますが、脳内麻薬のようなものが出やすいのです。これがコントロールできれば、有効な治療法になると考えられます。ちなみに、デュピルマブで快感が軽減するのは、もしかするとこのメカニズムを抑えている可能性があります。
そしてまた,異常のない皮膚には『抗菌ペプチド』といって,天然の抗菌物質が前線に充満しており,菌に強い状態を作り出しているのに対して,アトピー性皮膚炎の皮膚では抗菌ペプチドが少なく,黄色ブドウ球菌などが多くなってしまっているため,ニキビなどの細菌感染や,伝染性膿痂疹(とびひ)などになりやすいのです.