主人公の不思議な強さ「高雄港の娘」
世の中には強さにもいろいろとあると思います。
これまでもいろんな本を読んできて、強い人物をたくさん見てきました。
でも、この本の主人公の孫愛雪(そんあいせつ)さんの強さはこれまでどの人物とは一線を画するように思う。この強さはなんなんだろう?
さて、今回紹介するのはこの本。「高雄港の娘」です。こんな に
この小説は、高雄港に生まれた主人公の孫愛雪の一生を描く作品です。日本統治時代の1930年から2020年までの約90年間が舞台です。
なんとなくは知ってましたが、戦前の日本は台湾を統治していたんですよね。日本人が統治し、日本語を強要したりしていたんです。
そして、戦後は敗戦により、日本の統治が終わり、今度は、中国本土から流れてきた国民党の支配になるわけです。
そうした時代の移り変わりの中で、庶民がどのように生きたのかが描かれるわけです。つまりは翻弄されている様子ですね。
たとえば、日本統治時代は日本語が話せることが非常に重要であり、また、日本の大学に進学することがステータスであったものが、日本の敗戦により、それらがなんの意味もなくなる様子などですね。
これは日本人として受け入れるには複雑な思いを抱く事実ではありますが、ただ、他国に迷惑をかけた悲しい歴史を知る必要があると思います。この本は、こうした歴史に向き合うことに最適な一冊と言えるでしょう。
冒頭にも書きましたが、それより何よりこの本の中で注目すべきは主人公の孫愛雪の強さでしょう。
孫愛雪さんは国民党の戒厳令下の台湾から逃れるように日本に移住します。その日本で商売を始めるわけですが、たちまち成功を収めるわけです。
ここまではよく聞く話です。しかし、話はここで終わりません。
夫が祖国台湾のために革命活動をするのですが、その活動のためにお金が必要だと言われると、特に確認もなく、お金を出してしまうんです。
商売上手な人って無駄な出費を嫌うものです。商売に関してはそうなんでしょうが、大変な思いをして稼いだお金を具体的に何に使うとか確認しないで、夫を信用して気前よく出すのです。
この相反する行動をごく自然にしているのですね。
ここに主人公の強さを感じました。
夫への信頼なのか、祖国台湾への想いなのか、それとも生まれ持った性格なのか、判断つきかねますが、主人公の強さを感じましたし、感銘を受けました。
読み終わってからもう2週間経っていますが、まだその強さを消化できていません。なんなのでしょうか。
とにかく主人公の強さが印象的な一冊です。