帰宅困難者施設の確保
大阪市の帰宅困難者対策が後手に回っている。行き場のない人を広く受け入れる一時滞在施設は市内に確保されていない。
大都市を襲った3年前の大阪北部地震では、交通機関が乱れ帰宅できない人が街にあふれた。こうした教訓から、各自治体は帰宅困難者で行き場のない人が一時的に滞在できる施設の確保に力を入れている。だがその「成果」は都市間で差があるようだ。(朝日新聞、2021年6月18日)
東日本大震災では、首都圏を中心に約515万人の帰宅困難者が発生した(内閣府・東京都推計、2011年11月22日発表)。その後、対策の必要性が繰り返し指摘さてきた。大阪では、大規模災害が発生すると、想定される帰宅困難者数は大阪市内で約87万人、大阪府全体で146万人と想定されている(大阪府防災会議「南海トラフ巨大地震災害対策等検討部会」2014年1月)。特に、主要ターミナルでは多くの帰宅困難者が発生する見込みだ。
大阪・梅田駅(17万9千人)
難波駅(8万5千人)
天王寺・阿倍野駅(3万5千人)
上本町駅・谷町九丁目・鶴橋駅(5万7千人)
京橋駅(4万人)
新大阪駅(6万8千人) (想定される帰宅困難者数)
以下は、1年前の対策進捗の状況である。
災害時、帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設の確保に自治体が苦慮している。大阪市の主要駅周辺ではゼロにとどまり、東日本大震災を機に約40万人分を確保した東京とは地域差がある。背景には、滞在者の負傷など施設側の責任の所在が国の運営指針でも不明確なことがあるようだ。(日経新聞、2020年7月18日)
この間、東京都は対策を積極的に進めてきた。2017年には、都内の寺社など宗教施設を災害時対応に活用すべく、「東京都及び東京都宗教連盟の防災対策連絡会」を設置し、今も継続して帰宅困難者対策を進めている。そこには、筆者も有識者としてかかわっている。
東京都神社庁は、「減災の手引き~普段からの心構えと準備~」を作成し、東京都神社庁防災委員会で、首都直下型地震や異常気象による災害への対策を進めている。
一方、大阪市はどうか。今も大阪市内には、帰宅困難者を広く受け入れる一時滞在施設は市内に確保されていない。京都市が、市内に一時滞在施設を100以上確保しているのと対照的である。京都市では、寺社なども「緊急避難広場」として備えている。もちろん、大阪市も取り組みを進めている。主要ターミナル周辺の企業や学校等に協力を要請し、地区帰宅困難者対策協議会を設立し、災害対応の検討や訓練等さまざまな取り組みを進めてきた。しかし、協力をなかなか得られない現状がある。
そして、この地区帰宅困難者対策協議会の正式メンバーの名簿には、寺社等、宗教法人が入っていない。より積極的な連携が必要ではないか。
大阪市内では、以下の3宗教施設が指定避難所になっている。
本願寺津村別院(北御堂):1787人収容
真宗大谷派難波別院(南御堂):1362人収容
天理教葛上分教会:400人収容
また、津波・水害発生時の避難ビルや緊急避難場所として、大阪市内に20弱ほどの宗教施設が指定されている。
自分の住む都市における災害対応の備えはどうなっているのか。あまりにも脆弱な現状に、市民ができることは何か。大阪市内に住んでいなくとも、何らかの用事で市内に行くこともあろう。他人ごとではない。
参考:NHK「震災7年 宗教施設を防災の拠点に」(2018年3月9日放送)
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