社会を変える力
「こんな大変なことが、ものすごいいきおいで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなのんきな顔をしています。」
セヴァン・スズキ
「若い世代はあなたたちの裏切りに気づき始めています。未来の世代の目は、あなたたちに向けられている。もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、私たちは決して許しません。」 グレタ・トゥーンベリ
2019年9月、ニューヨークで開催された国連気候行動サミット2019に出席した当時16才の環境活動家グレタ・トゥーンベリは、「あなたたちは、私たちを失望させている。しかし、若い世代はあなたたちの裏切りに気づき始めています。未来の世代の目は、あなたたちに向けられている。もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、私たちは決して許しません。」と世界の指導者たちを痛烈に批判、「行動」を求める情熱的なスピーチを行った。怒りの表情と訴えに共感する人たちも多かったが、一方で、気候変動の影響を軽視する人たちから科学的根拠のない妄信とか、彼女が精神的な疾患を持っているからと批判する声も残念ながらあった。
国連でのスピーチのときは本当に怒っていたのか、それとも少しばかり演技をしていたのか──そんな質問にグレタ・トゥーンベリはこう答える。「そうですね──その両方です。これは人生で一度きりのチャンスだとわかっていました。だから最大限に活用すべきだと思ったんです。
この若い世代が、今や投票権を持つ。そして、気候変動に対する行動を起こさない政治家に圧力をかける。彼女と彼女に共感する若者の「行動」に政治家、世界の指導者たちはどう応えるのか。
グレタ・トゥーンベリは両親に、菜食主義になり、飛行機搭乗を止め、カーボンフットプリントに取り組むことを強いた。彼女たちのような強い信念のない筆者にはとてもできないことだ。では、どうしたらよいのか。国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP24)は、パリ協定の運用ルールをどうにか合意したが、実質的に世界各国に「行動」を求められるのか。日本では、2018年7月の西日本豪雨、続く災害級の猛暑、台風21号、2019年、2020年も九州地方を中心に豪雨や台風の気象被害がった。世界的にも気象災害が頻発している。
記録的な異常気象の背景には、地球温暖化があり、今後も同様の現象が増加するという科学的見立てがある。温室効果ガス排出削減が必要なことは誰もが同意するであろう。問題はその時期だ。国別の目標には、企業活動、経済とのトレードオフの関係もあり実現は困難だ。技術と社会のイノベーションで変革は可能か。国益を超えた、Japan Climate Initiative, ”We are still in”, Global Climate Action Summitなど、世界の非国家アクターの動きにも期待したい。
1992年、リオ・デ・ジャネイロで開催された環境サミットで、12歳の少女セヴァン・スズキは語り始めた。「太陽のもとにでるのが私は怖い。オゾン層に穴があいたから・・・。こんな大変なことが、ものすごいいきおいで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなのんきな顔をしています。」
東日本大震災で福島原発事故が起こり、関東を中心に多くの人が電力削減省エネルギーに対して行動を起こした。しかし、その後の10年、そして今どのような状況にあろうか。
「たとえ汚染しないエネルギーをえることが可能で、それが豊富にあったとしても、大量にエネルギーを使用することは、肉体的には無害でも精神的には人を奴隷化する麻薬に似た作用を社会におよぼすのである。」
(『エネルギーと公正』イヴァン・イリッチ)pp. 16,17
私たちが直面している問題は深刻さを増している。次世代の若者に押し付けるのか。どう対応するか。簡単な処方箋は無い。自分自身に問い続けている。