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キチ客だと思ったらホテルマンだった話 その2

2日目

9:20 初めての内線

時間通りに内線が鳴る。

「昨日は申し訳ありません。これからお部屋へ伺います」

昨夜の怒声が今日はボソボソと不貞腐れた様な声だが、同じ声がした。怒りが沸く。

子どもたちの前で話す気はなかったので、部屋を出てフロアロビーへと向かう。向こうから制服を着た男性が一人でやって来た。確かに昨夜の人物だった。年配・強面。如何にも頑固親父と言った風貌だ。

なぜ一人?責任者は聞いていないのか?
心中で呆れつつ声をかけた。

「あなたが昨日来た人?」

「はい」

「で、一人なの?話にならないから責任者呼んで」

「責任者は今は別の施設にいて…」

「どこにいるの?どれくらいかかる?」

「箱根フォレストという所で、15分くらいの所で…」

「じゃあすぐ呼んで。話は呼んでからにしましょう」

怒りを抑えて最低限の会話にとどめた。支配人に正しく伝わっていないのか?それともまだ連絡を受けてもいないのか?

どちらにせよ、とにかく杜撰だ。

9:35 呑気な責任者

コン、コン、コン。ホテルマンが通常するであろうノックが鳴る。

ドアを開けると責任者と思われる人と恫喝ホテルマンが揃っていた。

「申し訳ございません、当施設の責任者をやらさせてもらっていますXXと申します。」

「場所を変えましょう」
それ以上続けさせないよう制してから部屋を離れた。

責任者がレストランを提案し場所を移した。



私の後に座った責任者と立ったままの恫喝者。

以降の会話は記録された音声データを基に文字起こしをした実際の会話内容になります。

「昨日は、大変申し訳ございませんでした…」
責任者が謝罪を口にするが、こりゃ聞いてないなと思える口ぶり。

「どの様に伺っているんでしょうか?把握されているんでしょうか?」

「えっとちょっと、あのー夜中にですね、あの、うるさいという形で、あのー下の方から言われたという事で、ちょっと上の方に、ちょっとお客様のお部屋と勘違いをして、お客様、を、起こしてしまった、と、いう形では聞いているんですけども。」
やはり。夜中に勘違いで起こした事しか伝わっていない

「それだけですか?どの様に起こしたかっていう話は伺っていますか?」

「そこまでは、大変申し訳ございません。はぁい」
明るい口調の呑気な責任者。

「じゃあ、ご本人から説明してください」
怒りを押し殺して、恫喝ホテルマンからの説明を求めた。

「戸を叩いて…戸を叩いて………ドンドンドンドンドンって…」
弱々しく辿々しい声で、説明になってない説明をする恫喝ホテルマン。昨日の威勢は何処へ?

「え、もう、お客様のお休みになられているところを、もう無理やり起こしてしまったという様な状況でございましょうか?」
焦った責任者が口を挟む。お前には聞いていない。黙れ。

「まずご本人がちゃんと説明してください」
怒りを堪える。

「………起こし方でしょうか?あのー」
自分が何をしでかしたか分かっていないのだろうか?

「あなたが、どの様な行動をされたかを、説明してください。責任者の前で」

「あのぉーえーお部屋に行って、ええあのぉ、うるさい所と私勘違いして、戸を叩いて、で、えーーーえぇ、返事が無かったのでもう1回戸を叩いて、それであのー、う、うるさくぅ?し、しないで欲しいと…」

「はい、はい」と相槌を打っていた責任者の声も徐々に引いていく。

あちらからの言葉は続かなかった。こりゃダメだ。
怒りを通り越して呆れてきた。

「あのーまず名刺か何かいただけますか?」
「あぁ申し訳ありません。名刺等が無いんですが…」
「じゃあ身分なりお名前を伺えるものをいただけますか?」
「名前を伺えるもの?名乗る、タナカヒロユキ(仮名)という者なんですけど。」
「ここの支配人で間違いないですか?」
「はい、支配人というか責任者を、こちらの施設の責任者としてやらさせていただいてー」
「タナカさんね、はい、そちらは?」
「ミナカミ…ミナカミタカシ(仮名)」

謝罪に来たのに名刺も社員証も何も無いのか?呆れるばかりだ。

「えーご本人からの今の説明と、私たちが実際受けた内容は大きく違うので、それを説明させていただきますね」

ドンドンドンドンドン!!!!!
机に力任せに拳を5回振り下ろした。

「これが2回です」

「と、扉をその様な形で叩いたという事でございますか?」

「はい。先ほどタナカさんは(トントントン)とノックされましたよね?」

「はあい(パアァ)」

ドンドンドンドンドン再び拳を振り下ろした。

「夜中の11時半にこれです」

「はぁい(ショボーン)」

そして自分達がどのような被害に遭ったのか、その恫喝内容、フロントへ連絡した事、どの様な気持ちで一夜を過ごしたか、そして恫喝者がホテルマンだと知って心底驚いている事など、時系列に沿った事実と私たちの感情も含めて、その1で語った内容を懇々と説明した。

続く


宿泊先:四季倶楽部 強羅彩華
ホテル経営会社:株式会社四季リゾーツ

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