足関節捻挫と安定性について
はじめに
足関節捻挫は,若いダンサーで多いケガの1つです.症状の程度の違いはありますが,レッスンを休んだり制限したりする必要があることがほとんどです.
少し医療的なお話になりますが,足関節捻挫後に足関節が慢性的に不安定になる病態は,慢性足関節不安症(Chronic Ankle Instability; CAI)と呼ばれます.
これは主に構造的不安定感(骨や,靭帯など関節を構成している部位の損傷によるもの)と機能的不安定感(関節を動かしたりコントロールする時に筋力や神経が原因で生じるもの)から構成されています.
バレエを習っている学生を対象に行った調査でも,足関節捻挫が最も多く,同じ人が何回も受傷しているケースがいくつかみられました.
ご察知の通り,これにより再受傷することも十分考えられていて,他のスポーツを含め,原因や,トレーニングや,動作分析など様々な研究が進められています.
今回は,足関節捻挫とクラシックバレエの姿勢の安定性との関係性についての研究の一部をご紹介します.とても影響力の強い論文に掲載された研究です.
研究の紹介
この研究は,足関節捻挫の既往のないダンサーとあるダンサーの安定性についての違いを確かめるために行われました.
①片足立ち,②1番ポジション,③5番ポジション,④トゥシューズ着用の1番ポジションでライズの4つの姿勢で,足圧中心(足のどこに体重がかかっているのか見る指標)の軌跡を4回ずつ計測しました.
・結果
①片足立ち
捻挫したダンサーは左右方向への軌跡の最大値と4回の計測値のばらつきが大きく総軌跡長も大きかった
②1番ポジション,
捻挫したダンサーは4回の計測値の計測値のばらつき(約1.5倍),左右方向への軌跡の最大値(約2倍),総軌跡長(約5倍)が大きかった
③5番ポジション
総軌跡長(約6倍)が大きかった.
④トゥシューズでのライズ
総軌跡長(約2倍)が大きい
・考察
足関節捻挫を受傷後には,足関節の靭帯を支配するメカノレセプターの
固有感覚の認識が低下したり悪化することが言われています.
その結果,このような動揺につながっと考えられます.
足関節捻挫で多いのは内反捻挫(うちに捻って外側の靭帯を損傷する)なので,
足関節の左右方向への脆弱性が増加し,左右方向への動揺性が大きい状態でバランスをとっていたと考えられます.
また,固有感覚への刺激を大きくすることで,バランスを取ろうとするために,動揺を大きくすることで代償し,安定した姿勢をとろうとしたとも考えられます.
トゥシューズでのライズでは,解剖学的に足関節が不安定になりやすい姿勢です.その不安定さを靭帯や,筋によって支えています.
捻挫したダンサーは靭帯が傷ついて,弱くなっているので,
捻挫をしていないダンサーより安定性に欠けてしまったと考えられます.
安定性戦略には,足関節だけでなく,股関節や膝関節との協調性も必要になりますが,まだこれら個別の調整はわかりません.
研究から
捻挫したらバランスが悪くなると単に落ち込むのではなく,予防策や対応策を考えることが重要になってきます.一般的には背屈運動や,腓骨筋のトレーニングが足関節捻挫の際には用いられますが,一般のアスリートよりも高い次元でバランスが求められているダンサーが,高みを目指すためには何が必要になるのか今後の研究に期待です.特に左右方向へが弱いことがわかったので,そこに着目した介入が大切かもしれませんね.
<参考文献>
<足関節捻挫の病理とリコンディショニング> スポーツ活動における足関節捻挫 ―後遺症と捻挫再発予防について―日本アスレティックトレーニング学会誌 第 3 巻 第 2 号 127-133(2018)篠原 純司
Comparison of postural stability between injured and uninjured ballet dancers Lin, et al. American Journal of Sports Medicine; 39(6),2011
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