ダンサーの傷害調査

バレエダンサーの傷害調査について

はじめに


バレエダンサーは,身体的な要求が高く,幼いころから日々練習に取り組んでいます.それゆえ,腱や筋,骨,関節に大きなストレスがかかり,overuse injury に繋がると考えられます.また,男性のジャンプ着地時の前十字靭帯損傷や,男女ともに回転後に足関節底屈位(ポアントやデミポアント)から着地する際に捻挫が起こるように,trauma を受傷するリスクも十分あります.

私自身も踊っていた時,他の友達よりたくさんケガをしていて,なんでだろう,何か予防できないんだろうかと常々考えさせられていました.結果,同じような思いをしているダンサーやダンサーの卵たちを救いたい!と思い,このような医療と関わることを志しました.
今ではダンサーのための医療だけではなくて,ダンスには他にもいろいろな可能性があることを知っているので,また報告しますね.

話を戻して,今回はダンサーがどのような外傷,障害を受傷しているか調査している文献を紹介します.

研究の紹介


①ブラジル(リオデジャネイロ)の傷害調査
対象:22名の男性,88名の女性プロダンサーおよびアマチュアダンサー
(有効回答率:110/300名)
結果:女性で多い傷害は捻挫が多く,男性では筋損傷と捻挫が多い結果となりました.部位としては男性女性ともに足関節が多く,加えて女性では膝関節,男性では腰部が多い結果となりました.プロダンサーの受傷率としては女性では90.0%,男性では91.3%となりました.ピルエットや繰り返しの動作,ジャンプ着地が受傷機転として多いものでした.

②関東労災病院の傷害調査
対象:1980年から2002年までに受診したもののうち,ダンスにより受傷した2118名(男性287名,女性1831名;平均年齢27.4±11.8歳)
ジャンルは①ジャズダンス・エアロビクス(893名),②クラシックバレエ(501名),③その他(モダン,創作,社交ダンス)(724名)に群分けされました.
結果:種目別には,①ジャズダンス・エアロビクスでは20代53.6%で最も多く,②クラシックバレエでは10代50.1%,20代33.9%と10~20代で80%を占めた.③その他では10代で37.7%,20代で33.1%となった.
クラシックバレエでは足関節・足部,ジャズダンス・エアロビクスでは下腿・アキレス腱の障害が多かった.


私が今まで読んできた様々な文献を踏まえると,疾患名としては足関節捻挫,長趾屈筋腱炎,アキレス腱炎,三角骨傷害等が多いものだと思います.また,腰部のoveruse injuryもプロになると増えてきます.10歳から21歳を対象とした調査ではTrauma 11%  Overuse 38%,プロダンサーではTrauma 32%  Overuse 64%と世代によって受傷割合が異なってきます.

研究から


若い世代での受傷が多く報告されていることがわかりました.どんなスポーツでもケガはつきものとは言いますが,ある程度の傾向や受傷機転等は研究が進むことで解明されてきています.傷害はダンサー生命に影響を与える可能性もあります.ダンサーにとって練習することは必須なので,どのように予防するか,治療するかが私たち治療家の課題です.
高いレベルでのパフォーマンスを行うために履いて演技するようになったトゥシューズを履く年齢や,日本国内のコンクール文化等議論が行われていますが,ガイドラインはあっても結論は出ていません.日本は諸外国と比較すると,身体条件が恵まれていなくとも,踊れる環境にあると思います.素敵なことですね.そのような環境だからこそ,ダンサーの成長段階に適したレッスンやトレーニングを行い,テクニックばかりに目をむけることなく,無理をさせないよう予防することも大切なことの1つだと思います.

〈参考文献〉
Michelle S. S. Costa et, al. Characteristics and prevalence of musculoskeletal injury in professional and non-professional ballet dancers. Braz J Phys Ther. 2016 Mar-Apr; 20(2):166-175
鵜澤紀子 他.ダンスにおけるスポーツ損傷の特徴ー2118症例の疫学的調査ー日本臨床スポーツ医学会誌 Vol.13No.1,2005.
Francisco Jose´ Sobrino et al. Overuse injuries in professional ballet influence of age and years of professional practice


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