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高みを目指す人、それを眺める人

 先日、と言っても昨年の秋頃になりますが、私の知人のHさんと彼の愉快な仲間達からカーミーティングイベントを見に行かないかと誘われました。

 その後、そのHさんと愉快な仲間達に誘われカーミーティングイベントの飲み会にも参加させていただきました。

 今回私が誘われたカーミーティングと言うのは、Hさんとその仲間内が主催とまではいきませんが、中心メンバーとなって開催されたイベントです。

 驚くべき事に、このHさんと愉快な仲間達というのが、普段は自動車とは無縁の企業で勤めている方々しかおらず、仕事・家事・育児の合間(中には奥様に隠れて)で車をカスタマイズしているという人たちで構成されています。忙しい日々のスキマ時間でコツコツ仕上げた車は、どれもプロショップのデモカーと言っても過言では無い程のクオリティであり、然るべきコンテストに出れば賞を取れるのでは無いかと私は思いました。

 さらに驚くべきはこのメンバーの大多数の方が、それぞれの得意分野を活かして副収入を得ていると言うのです。

 例えば、自動車の塗装が得意な方は、車のみならず、家具や雑貨にオリジナルのペイントを施してネットで販売していました。金属加工や彫金や革細工が得意な方はキャンプ用品を自作したり、シルバーアクセサリを作ってハンドメイドマーケットで販売したり、木工やプラスチック加工に詳しい方は、自分でオリジナルの魚釣りで使うルアーを製作及び販売しているというのです。

 副業での収入も聞きましたが、日々の片手間での製作で無ければ"その道でも充分食べていける"レベルでした。


 イベントも無事終わり、私はHさん一行の飲み会に参加させていただく事となりました。

 ようやく本題に触れる事となりますが、飲み会中に皆さんは

『もっと良い物を作りたい』
『よりセンス良く作りたい』
『作れる物の範囲をより広げたい』

と、さらなる高みへの願望を話すのです。

 皆さんの制作する車も服収入源もプライベーターの域を超えています。しかし、それは逆に言ってしまえば、勤め人の限界のクオリティだと私は思います。

 その域に辿り着いても、誰もその限界の話をせずにより高みへ向かおうとする意気込みに私は心から驚きました。


 Hさんと愉快な仲間達と知り合いになったキッカケは、私の乗る車です。

 その車は、私が自分でオリジナルのデザインを考案し、実際に自分の車に施工しました。それがHさんの目に留まり、サークルに勧誘された次第です。

 私は自動車をカスタムする際に、その改造のテーマの中身やその歴史背景やカルチャーを調べて徹底的にディテールに落とし込みます。自動車のカスタムですが、音楽や色彩学や歴史文化研究に近いです。

 『いくらかかっても良いから、こういうのを作って欲しい。』

 あとは実現させてくれそうなお店に片っ端からアポを取ってそう伝えるのが、私の車のカスタムのプロセスです。

 Hさん達は"自分の理想を自分たちの力で作り上げる"一方で、私は"自分の理想を実現させてくれる人を探して頼みこむ"という部分が決定的に違います。"札束カスタム"とHさん一行には表現されましたが言い得て妙です。


 先程、私は自動車のカスタムをする時に、そのカスタムのテーマに沿って歴史や文化を学習すると書きました。

 それが原因かは分かりませんが、昔から私は知識だけは豊富にありました。触れるコンテンツ全ての歴史と文化のオタクでした。

 人から""と思われたくて、触れるコンテンツを徹底的に掘り下げるのは昔からの私の性です。

 しかし一方で飽き性でしたし、手先は本当に不器用でした。

 1つのコンテンツを掘り下げて"通"の域に辿り着けばまた次のコンテンツへ、といった具合です。

 実践しようとしても手先が不器用だったので、いつからか"自分で何かを組み上げる"という事を放棄して、最終的には自分の限界を勝手に決めるようになりました。


 私は決してこの事を、悔しんだりだとか勿体無いとは思いません。

 逆に言えば、飽き性で不器用で自分の限界を勝手に決めるからこそ、次から次へと気になる事を調べるようになり、それで得た知識はたくさんあります。

 Hさんと愉快な仲間達は、カスタムのレベルが高いからこそ“この車種でこの仕様だからこうしなきゃらない”そのジャンルの枠に縛られているようにも私は感じられました。

 逆に私の場合は、自動車カスタムのジャンルにおいても古今東西あらゆると言っても過言では無い、カスタム技法や魅せ方を知識として得てきました。

 Hさん達が以前に“こういうカスタムがしたいけれどもどうも二番煎じな気がする”と、私に相談してきた事があります。私はあえて他のカスタムジャンルを取り入れたらどうか、だとか、自動車カスタムの分野を超えたペイントの表現技法を薦めました。

 結果として、仲間内で共同で製作した車両は雑誌の一部に掲載された事があります。


 私が誘われたカーミーティングの飲み会で、Hさんと愉快な仲間達は

『自分の代で新しいジャンルを生み出したい』

と、口々に仰っていました。

 彼らの熱量であれば、夢では無いと思います。

 自動車のカスタムという幅を超えて、ファッションの一部のような色々な分野の集合体として何かを作り上げてくれるのでは無いかと私は思っています。

 技術の頂とも言える先の見えない険しい道を登り続けて行くHさんと愉快な仲間達を私は時に山の中腹からアドバイスを送りながら、その姿が見えなくなる日まで応援しようと思った出来事でした。

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