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逆噴射ピックアップ&ライナーノーツ
逆噴射小説大賞の応募作を上限まで提出したので、他作品のピックアップとライナーノーツを書いていく。
まずはピックアップから。
◯ピックアップ
いちおう、このピックアップは完全に個人的な基準に従って選定されているものであることを明記しておく。
『第六切断面』
地球が輪切りにされているというビジュアルが素晴らしい。貴志祐介『ダークゾーン』を思わせる不条理バトルロワイヤルのにおいが漂っており、読者に主人公の過去とこれからの展開をなんとなく想像させる手法が上手い。
視線誘導もかなり自然に行われており、卓上で燃える髑髏とは違う光源を指し示すことで、異常化した地球を見せつけられた際の衝撃度がアップしているように感じた。
実は俺の作品がちょっとネタ被りしちゃったというのは内緒。
『緋色の白刃/スカーレット・ホワイトブレード』
いきなり屑なおっさんが出てきて「すわ、成敗か!」と思わせてからの特権階級である侍という概念の提示、からの決闘、からの魔物の討伐、という一連の流れと世界観がするすると飲み込める文章力と構成力に脱帽。果たしておっさんを討伐できるのか、気になる。
『泥とプラチナ』
個人的に今年の大賞受賞作はこれになると思っている。このピックアップにおいては基本のキである「先の展開が気になるもの」や一歩ふみこんで「世界観が飲み込めるもの」を重視している節があるが、これはそれらを軽くクリアし、さらに「長編小説の自然な導入感」まで纏わせているところに大物の風格がある。その上主人公がやり手のスリだという情報を地の文で直接表現するのではなく、「獲物と自らをシンクロさせ、盗る」といった形で間接的に表現するという、かなり難易度の高いことをやってのけており、素直に降参だ。
また、逆噴射小説大賞においては最小文字数で最大効果を発揮することがもっとも重要だが、この作品は「半竹がよ──」という非常に短いセリフだけで「今主人公がいる場所」「老人の出身」などの背景情報が察せられるようになっており、卓越したセンスと円熟した技術を存分に見せつけてくれる。
私的800文字パルプオブザイヤー2024。まさに白眉である。
『毒液の前兆 -portent of venom -』
殺し屋モノの冒頭から始まり、虫達のイヤーな比喩を用いることで得体のしれない罠にハマったような感覚を読者にもたらしてくる。
と思いきや、最後の最後に蕃神モノであったことが示唆され、一気にこの先の展開の焦点が絞られてきた感覚がある。
主人公には逃げ切ってほしいが、同時に無理そう感も漂っていてやるせない。いや、案外この先幸せになるのやもしれぬ。
『凍ざされた街』
逆噴射小説大賞には、800文字という制限ゆえに独特な世界観を提示しづらいという難点が存在する。この作品は独自の『熵素刀』や『凍血人』というワードを駆使することで鬼門を攻略してみせた。
舞台の明かし方も上手い。始めの「単に高い壁に囲まれた凍てつく街」という先入観から、「どこかの宇宙を漂う播種船」を思わせるイメージ転換も、センス・オブ・ワンダーに溢れている。
単に異形な世界観の描写にとどまるのではなく、少女の視点から恋愛を絡めて物語っていくところも読者の共感を呼ぶ作りになっていて、実によくできている。
『盆栽コンテストバイオテクノロジー部門』
「松が自分の足で歩いて盆栽コンテストに参加する」という設定だけでもう面白い。語りは朴訥で、スラスラ読めるところが好印象。
ラストの盆栽の内容が見たかった気もするが、それが逆噴射的にはプラスになるのか否かは分からないので何とも言えないところだ。
『ブラッディ・エンジン:2.5』
猛烈に漂う「パルプ感」。noteにおけるパルプの良さとは、やけっぱちで、細かいことなど気にせず、ただひたすらに暴走するところだ。そしてこれはまさにそんなパルプのお手本とでも言うべきデスレースパルプ小説だ。作者の方はパルプをよく研究してるに違いない。
また、ただ爆発するエネルギーに身を委ねるのではなく、「下位の者は爆散してしまう」という状況説明を加えることで、緊張感も生み出されている。
『【長命夫を暗殺しよう!!】 #逆噴射小説大賞2024』
パルプスリンガー的にはもう一本の『クソグラフ〜』の方がウケはいいらしいが、俺はどちらかというとこっちを推したい。
状況の多くが地の文で説明されているが、俺はラストの一文で持っていかれてしまった。バンパイアハンターではなく、バンパイアハンティングYouTuberをセレクトすることで現代の雰囲気としょうもなさを同時に醸し出しており、それゆえにこの先どんなシチュエーションが待ち受けているのか非常に気になった。
実は意外と感動的なオチに着地するのではないかという気もする。
『大殺壁』
世界観を地道に積み重ねていき、最後の最後で決めてみせる。それでいてショートショート的なオチに帰着しないところがまた腕前を感じさせる。
一体なぜ殺人の罪を犯すと壁を越えることができるのか?大変気になる。
◯ライナーノーツ
『PAX APOCALYPSIS』
まず最初の発端というか発想のきっかけは「いくら将棋が強い藤井聡太でも殴られたら死んでしまうんだよなあ」と思ったことにある。
……誤解を招きそうなのでもう少し説明すると、いかに将棋やゲームが上手くとも、強いマッチョが本気になって殴りかかってきたら意味がないと思ったのだ。さらに言えば、どでかい隕石が落ちてきたり、何かの間違いで太陽系に中性子星が紛れ込んできたりと、到底人間の及ばぬパワーを持つものがやってきたら、それはもういかんせん。
なので逆に「そうした物理現象というか、条理を盤上遊戯でもって制御できないかな?」と考えた。
〈天盆〉の発想はこうして出来上がった。
大まかなネタは出来上がったのであとはその周りを取り巻く諸々の要素を決定し、天盆をマクガフィン的に取り合う、みたいな話にすることにした。
また、過去作品の傾向から鑑みるに、逆噴射総一郎は燃えてる世界が好きなようだ。なので世界を燃やしてみた。それが功を奏したのかは神のみぞ知る(というか神などいないので誰も知らない)。
書く時に意識したのは、なるべく平易な文章にすることだった。細かいネタを封入するのも避けた。自分が他人の逆噴射小説大賞応募作を読んで感じたことは、すらすら読める方が素直に面白さが伝わるということだ。なのであまり凝った要素は入れず、話の枠組みや個々の要素はシンプルになるように努めた……つもり。
話の構成は、前半部分で世界観や状況を提示し、後半で話を転がすというオーソドックスな方式を採用した。
また過去の受賞作を参考にしたりもした。
主に、
以上の3作だ。
特にジョン久作さんの作品は去年の受賞作ということもあってか、かなり似通った走り出しになってしまった感がある。ちょっと反省。
また他にも、世界観を地の文でずらずら並べ立ててしまったため、文としての結合感や流動性といったものが失われ、ぎこちなくなってしまった印象がある。先のピックアップでも挙げたような、RTGさんの『泥とプラチナ』やお望月さんさんの『凍ざされた街』などは、そこら辺をスムーズに読ませる構成に仕上がっており、今振り返ると少しばかり説明的になりすぎてしまったように感じた。題材選びとの兼ね合いもあってけっこう難しいが、『盤と駒の相互作用によって物理現象に影響を与えることができる』というのをもっと上手く示唆する方法があったのではないかと思わざるをえない。ここが一番の反省点だ。
また、いくつか頂いた感想の中から「読めない漢字がある!」というコメントがあり「これはやってしまった」と思った。
俺は難しい漢字を使う=かっこいい文章になるという考えで書いている節があり、そこを自身の悪癖であると捉えて戒めていたつもりだったが、未だ矯正しきれていないようだ。また、「デジタルだから読者もその場で検索できるだろ」という甘えを捨てきれていなかったようにも思う。逆噴射小説大賞においてはこうした甘えが命取りだ。今後は強く戒めていきたい。
『医療爆発』
1本目がわかりにくい感じに終始してしまったので、2本目はシンプルに行きたいと考えていた。
なので「閉鎖空間で怪物に襲われる」というバイオハザードやエイリアンといったゴシックホラー的なフォーマットを採用することにした。このフォーマットは既に世の中に普及し切っており、あまり説明に文幅を割く必要がないと考えたからだ。
結論から言うと、この作品は失敗した。
なぜか?
それはシンプルにすると言っておきながら自分のエピック精神を抑えきれず、あれやこれやと要素を詰め込みすぎてしまったからだ。
はじめのプランとしては「怪物に襲われた主人公がうっかり怪物化キットを自身に注射してしまい、怪物化する」というものだった。
なので怪物化した友達を殺す云々の流れは完全に後づけであり、「欲張って入れなければよかったかも……」と今になって思う。
「骨折しながら移動する無数の眼球持ちの肉塊」とか「ブレード化した肋骨」というアイデアなどは有り触れてながらも気に入っていたので、残念しきりだ。
いちおうこの後、「怪物化した患者をぶち殺しながら全ての発端であるクソ病院の院長を殺しに行く」という流れを想定していたので、今書き直すとしたら肉塊をブレードでバラバラにし終えたところから話を始め、その後クソ病院の真実を知り、院長をぶち殺しに行くという風にすると思う。