都電と夕焼け色の東京
小学5年生のカズオは、夏休みに祖父母の家へ遊びに行くのが楽しみでした。祖父の家は東京の下町にあり、近くには都電の線路が走っていました。毎日のように行き交う電車の音を聞きながら、カズオは東京に来るたびにその光景を眺めていました。
「おじいちゃん、昔はもっとたくさん都電が走ってたんだよね?」
ある日、カズオが聞くと、祖父はニコニコと頷きました。
「そうだよ。昔は東京中を都電が走っていたんだ。今みたいに地下鉄やバスが少なかった頃、都電はみんなの足だったんだよ。」
祖父はカズオを連れて、近くの都電の停留所に行きました。線路のすぐそばで電車を待ちながら、祖父は懐かしそうに話し始めました。
「昔はね、都電に乗って学校に通ったり、買い物に行ったりしたんだ。特に夕方になると、仕事や学校帰りの人たちがいっぱいで、ぎゅうぎゅう詰めだったんだよ。」
「えー、それって大変じゃない?」
カズオが驚くと、祖父は笑いながら言いました。
「でもね、車内で知らない人同士が話をすることもあって、今より人と人の距離が近かった気がするな。」
やがて都電がやってきました。カズオと祖父はゆっくりと動き出す車内に座り、窓の外を眺めました。狭い路地の間を抜けていく電車から見えるのは、古い商店や昔ながらの家並み。祖父が言いました。
「ほら、あの商店街も昔は都電のおかげでにぎわっていたんだよ。」
夕陽に照らされる商店街には、古い看板や店先で談笑する人々の姿がありました。カズオはその光景に、「東京って、今も昔もこんなに温かい場所なんだ」と思いました。
電車を降りたあと、祖父はさらに続けました。
「でもね、時代が進むにつれて車や地下鉄が増えて、都電は少しずつ廃止されていったんだ。それでも、こうやって残っている路線があるのは、本当にありがたいことだよ。」
カズオは祖父の話を聞きながら、「昔の東京の暮らしって、どんな感じだったんだろう?」と想像しました。都電はただの乗り物ではなく、街の暮らしそのものを支えていたんだ、と感じたのです。
その日、家に帰ると、祖父が昔撮った写真を見せてくれました。そこには、今よりも多くの路線が走る都電と、その周りで楽しそうに暮らす人々の姿が写っていました。
「これがおじいちゃんが子どもの頃の東京だよ。」
祖父の懐かしそうな声に、カズオは写真の中の風景が今の東京とつながっているように思えました。
夏休みの終わり、カズオは学校の作文にこう書きました。
「都電は昔の東京をつなぐ大事な乗り物でした。今は少ししか残っていないけれど、乗ると昔の人々の生活が感じられる気がしました。これからも都電が走り続けてくれたらいいなと思います。」
その作文を読んだ先生は、「とても温かい話だね」と褒めてくれました。
教訓
「過去の暮らしを知ることで、今を大切にする心が育つ。」
この物語は、都電という懐かしい存在を通じて、東京の歴史や人々のつながりを感じることの大切さを教えてくれます。