深夜のラジオと小さな勇気
小学6年生のタクヤは、夜更かしをするのが少し得意でした。家族が寝静まったあと、勉強机に座ってラジオをつけるのが彼の密かな楽しみだったのです。
「さて、今日も深夜ラジオ、始まります!」
お気に入りの番組のパーソナリティの明るい声が流れ、タクヤはイヤホンをつけて音量を小さくしました。学校ではなかなか話せないような内容や、ちょっと大人びた音楽が流れるその時間は、タクヤにとって特別なひとときでした。
ある日、番組内で「リスナーからのメッセージを募集します!」というコーナーがありました。テーマは「最近感じた小さな幸せ」。
「僕も送ってみたいけど……。」
タクヤはペンを握りながら考えましたが、結局その日は何も書けませんでした。「僕なんかの話、読まれるわけないし……。」という気持ちがどこかで引っかかっていたのです。
翌日、学校であった出来事を思い出しました。クラスで何となく孤立している友だちに、タクヤが「一緒に帰ろう」と声をかけたら、その友だちがうれしそうに笑ってくれたのです。
「これって、小さな幸せ……かも。」
タクヤはそのことをラジオに送ることにしました。自分の名前はちょっと恥ずかしかったので、「ラジオネーム:深夜の少年」とだけ書きました。
数日後、いつものようにラジオを聞いていると、パーソナリティがこう言いました。
「次は、ラジオネーム『深夜の少年』さんからのメッセージです!」
タクヤの心臓はドキドキしました。
「最近、クラスで一人でいることが多い友だちに『一緒に帰ろう』と声をかけたら、とても喜んでくれました。小さなことだけど、僕も少し幸せな気分になりました。」
そのメッセージを読んだあと、パーソナリティが優しい声で言いました。
「深夜の少年さん、素敵な話をありがとう。小さな勇気が誰かを幸せにして、それがまた自分の幸せにもなるんだよね。」
タクヤはラジオを聞きながら、じんわりと胸が温かくなるのを感じました。「僕の話でも、誰かが聞いてくれるんだ」と思えた瞬間でした。
それ以来、タクヤは何度かラジオにメッセージを送るようになり、自分の気持ちや日々の小さな出来事を言葉にすることの楽しさを知りました。そして学校でも、少しずつ自分から話しかけることが増えていきました。
ラジオから流れる声は、今でもタクヤの夜を温かく包んでくれています。
「いつか僕も、誰かを励ませるような言葉を届ける人になりたい。」
そう思いながら、タクヤは今日もラジオのスイッチを入れます。
教訓
「小さな勇気が、自分と誰かをつなぐ力になる。」
この物語は、ラジオを通じて得た心のつながりが、新しい一歩を踏み出す勇気を与えてくれることを教えてくれます。