五家宝と祖母の思い出
小学5年生のアキラは、夏休みに埼玉県熊谷市に住む祖母の家を訪れました。熊谷市は「日本一暑い街」とも言われるほどの暑さで、エアコンの効いた祖母の家が、アキラにとっては唯一の避暑地でした。
ある日、祖母が冷たい麦茶を出しながらこう言いました。
「アキラ、今日は熊谷の名物『五家宝(ごかぼう)』を一緒に食べようかね。」
「五家宝?どんなお菓子?」
アキラは初めて聞く名前に興味を持ちました。
祖母が食器棚から取り出したのは、和紙に包まれた細長いお菓子。開けてみると、ふんわりした黄土色の粉(きなこ)に包まれたお菓子が顔を出しました。
「これが五家宝よ。もち米で作った生地にきなこをたっぷりまぶしてあるの。昔ながらのお菓子で、熊谷ではみんな親しんでいるんだよ。」
アキラはそっと手に取り、一口かじってみました。もちもちとした生地の柔らかさに、きなこの香ばしい甘さが口の中に広がります。
「これ、おいしい!柔らかいけど、しっかり甘いね!」
祖母はうれしそうに笑いながら言いました。
「そうでしょう?五家宝は昔から祝い事や贈り物に使われていたのよ。手間暇かけて作られるお菓子だから、特別な気持ちを込めて贈るんだね。」
アキラは驚いて尋ねました。
「これって、どうやって作るの?」
「もち米を蒸して練り、きなこと一緒に仕上げるの。でも、昔は手作業だったから、本当に大変だったのよ。」
その話を聞いて、アキラは「ただのお菓子じゃないんだな」と感じました。
午後、祖母が「少し涼しくなったから散歩しよう」と誘い、地元のお菓子屋さんに連れて行ってくれました。そこでは、職人さんが五家宝を丁寧に作る様子を見学することができました。
「おいしい五家宝を作るには、材料を選ぶところから気を使うんですよ。」
職人さんはそう言いながら、手早く生地を丸め、きなこをまぶしていました。
その真剣な姿を見たアキラは、「こんなふうに一つひとつ丁寧に作られているんだ」と感心しました。
帰り道、祖母が言いました。
「五家宝には、熊谷の人たちの優しさやおもてなしの気持ちが込められているのよ。アキラも誰かに五家宝を贈りたい人ができたら、そのときはこのお菓子を選んでみるといいわね。」
アキラは祖母の言葉を胸に刻みました。
東京に帰った後、アキラは友だちへのお土産に五家宝を持って行きました。
「これ、熊谷ってところの名物なんだ。もち米ときなこで作られていて、めっちゃおいしいよ!」
友だちも「こんなお菓子、初めて食べた!」と喜んでくれました。
アキラはその様子を見て、五家宝がただのお菓子ではなく、熊谷の人々の心をつなぐものだと改めて感じました。
教訓
「伝統のお菓子には、人々の思いと地域の文化が込められている。」
この物語は、五家宝を通じて、地元の誇りと贈り物の温かさを感じる大切さを教えてくれます。