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「でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

 アスファルトが湯気を立てそうなくらい暑苦しい八月に正気を保っていられるなんて、狂気そのものだ。
 巨人のため息みたいな、湿り気と熱気を含んだ風がどっしりと身体を撫で回す。何らかの試練なのでは、と思うけれど、悪いことばかりでもない。例えば冷房の快楽、それとシースルーカーディガンが流行ったことくらいには、暑さに感謝状をあげたい。

 夜の公園ってエモくていいよな、なんて今だに「エモい」を選び取るワードセンスは、最早ネタか皮肉かと思うけれど、砂利をじゃりじゃり踏む足取りは軽やかだ。
 お前なんかChill out片手に口はシャボン玉飛ばして、写ルンですを残りの片手に閃光を焚きながら、無意味に意味を見い出すセンスに酔っていればいい。
 これは当然嫉妬だ。
 僕の面白がれない事へいつも夢中で、僕の知らない世界でいつも自由で、酸素の濃ゆそうなお前と、僕の周りは一酸化炭素が混じっている。それでもこうして歩いているのは、お前の口角が上がっていると安心するからだ。

「なあお尻脱毛を受けると8万円分のアマギフくれるメンズクリアって、人の陰毛集めてんの?」
「やめろ気色わるい」
「だってあれけつ毛買ってるんだろ、とんだドスケベだよ」
「お前の言葉選びは絶妙に古臭いんだよ」
「おいおい何言ってんだよ、もう令和4年だぜ?」
「だから言ってんだよ」
「歴史は循環するんだよ、君」

 つば付きのキャップを脱いでは被り、少し捻っては脱いで被り直している。
 暑くて脱ぎたい癖に、出鱈目なヘアスタイルを晒すのが恥ずかしくて戸惑っているのが、さめざめと伝わってダサい。人間くさくて愛せる。

「だから、俺は脱毛なんかしない。いづれゴリラの時代が来る。そしたら、つるつるの毛なしピテクスを押し退けて、俺が天変地異級にモテ散らかす計算だから」
「とんでもない益荒雄ぶりだ、史実家も平伏するくらいの温故知新だよ」
「解ってるな、最近の若いのは精神薄弱でコシのないきしめんみたいなフォルムをしてる。俺は次世代の思想を担う男として立派なゴリラになるんだ」
「悪口ありがとう、男々しくてなによりだよ」
「お前もゴリラにならないか?」
「ならない」
「なんだ、強さが怖いか?」

 ぎらぎらした目元から、生命の力強さを感じる。耳をすませば、三拍子のドラミングが聞こえるような気さえする。
 ウホばかり見てるから、作法には疎いのが弱味。

「でもさ、でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

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