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【電子版】 神

 私は今、生まれ変わるのである。

 私は今、地と平行になりつつある。目の前が真っ暗になる。その時私は、孤独そのものだ。突然生暖かい感覚が、頭に伝わる。私は尋ねられる。大体がうなづいてしまう。私はこの感覚が好きであり、気持ちがよい。不思議な感覚に陥ってしまうのだ。パッと目の前がいきなり、白い光で包まれる。目が慣れてきたとともに、頭部に湿り気を感じる。私はよく知らない存在に、うながされるままに動く。私は確かに座った。しかし私は上昇する。上昇がとまったころ、私は真っ白の布に包まれる。姿勢を良くした私は、ふと気がつく。目の前に自分がいるのではないかと。そこにいるのは確かに自分ではあるが、少し違ってみえる。私は思う。これこそ俗にいう「負の自分」なのではないかと。そんなことを考えているうちに、よく知らない存在にいくつも質問をされてしまう。私がその存在について知っていることは、刃物を扱い、自分の実力を示すということだけだ。そんな存在に質問されるのに、私は正確に答えてしまう。個人情報もなにも関係なくなってしまうのである。

 そして私は生まれ変わっていく。時が経つにつれ、私は軽くなっていく。軽くなっていく私の体に黒いものがまとわりつく。私は途端に苛立ちが抑えられなくなる。すべてが気持ちよく進んでいるにもかかわらず、その黒いものは私にまとわりつくのだ。どんどん黒いものは増えていき、私の苛立ちも大きくなってきている。そこで私は決断した。この苛立ちの元凶、いわば私の心のテリトリーを侵害する邪悪な物体を、振り落としてしまおうと。私は今できることを精一杯行った。振り落としては増え、振り落としては増える物体に私はもう打つ手がなくなってきていた。私は焦る。首元にチクチクとした感触がある。私はその時悟った。私の体はこの物体に浸食され始めていると。「誰か、誰か助けてくれ」とそう思ったその時、奴は現れたのだ。私は救われた。そして私を包まっていた白い布も奴によって外された。私を邪悪な物体から救ったのは、刃物を扱う例のよく知らない存在だったのだ。

 私はまた、姿勢をよくした。長いようで短い戦いを制した私の顔が映る。先ほどの自分とは思えないほどの別人である。私はその時思った。「生まれ変わった」と。そして私はまた尋ねられる。私を救ったよく知らない存在に。一番最初とは違う質問だが、満足した私はまたうなずく。そして自然と言葉が出てしまう。「ありがとうございました。」

 雰囲気が変わった私は、上機嫌でそこを出た。平和の象徴とされる。二本の指を使ったサインに似た刃物を扱う、その店を出た。

 私は神を切った。

※この文章は、2017年3月31日に発行された「琥珀Ⅱ」に収録された文集です。

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