『メアリ・スチュアート』と黒田さん
演劇エッセイ/4日目
前回の続きです。今年2月、世田谷線に乗って世田谷パブリックシアターへ行きました。観劇したのはコチラ。
『メアリ・スチュアート』2020/1/27〜2/16◎世田谷パブリックシアター
※出演者、あらすじなどの公演情報は上記ホームページに記載されています。そちらをご参照ください。
実は、観劇日以前にホームページで舞台写真を見ていて、僕の感想は「…暗いなぁ」でした。舞台上の雰囲気のことも指しますが、何より物理的に暗い。勿論それは意図的で、演出に基づき暗い照明を作っているに違いありません。ただし本編を観るまでその意図は読み取れない訳で、僕の観劇前の印象は「(あらゆる意味で)暗すぎないと良いのだけれど」という感じでした。余談ですが、暗い舞台(←暗い作品という意味ではありません。文字通り暗い舞台)はやや苦手です。目がかなり疲れてしまうことと、そもそもあまりよく見えないという、極めて個人的・身体的な理由で。
この物語はメアリとエリザベス、二人の女王の王位継承に関する覇権争いが軸となります。そこに、宗教、恋愛感情、嫉妬、孤独、怨念、そして歴史の歯車などが複雑に絡み合い、重厚感のある人間ドラマが繰り広げられます。舞台上の照明は、やはり暗めで、それにより登場人物たちの「苦境」が浮かび上がってくるように感じました。その他のシーンでも、暗めの照明には大きな意味が宿っていたと思います。
※ゲネプロ(最終稽古)映像の一部だそうです。
そして、今作で僕の心に最も響いたのは、俳優の黒田大輔さんでした。過去に何度か取材歴もある、知っている俳優さんということもありますが、この時の黒田さんは絶品。休憩込みで3時間を越える長編ドラマの中、黒田さんが台詞を喋るシーンはかなり限られていました。おそらく10分程度だったと思います。しかし、その短いシーンで、理不尽な権力に翻弄される一役人(エリザベス女王に仕える秘書役でした)の混乱と苦悩を、軽いユーモアも交えつつ、観客に丁寧に手渡してくれた。16世紀末のイギリスを描き、女王、伯爵、領主、外国大使、等々、僕のような日本の小市民には縁遠い人物が次々と登場する中、黒田さん演じる秘書は、作品世界と観客を繋ぐ重要な役割を担っていたと思います。その秘書官はとある重責を問答無用で押しつけられ、処罰されてしまうのですが、その悲しい役柄を、あの短いシーンで見事に演じきった。この物語が現代日本で上演される意味を、観客に分かり易く伝えたのが、黒田大輔さんだと僕は思います。
※蛇足。このエッセイ企画は、作品そのものについてあまり語らないことを目標のひとつに掲げています。主観や個人的体験を大切にしたいので、客観的な作品紹介はほぼやらないと思われます。