「すげー好き!!」だけ覚えている

演劇エッセイ/11日目

……裏を返せば「それ以外あまり覚えていない」という、何とも心細い僕の脆弱な記憶力なのですが。それでも今作について書こうとするのは、僕にとって、とても大切な一作だから。

その当時。海外戯曲を上演する「翻訳劇」に対して、僕は半信半疑の気持ちが強かった。面白い公演とも多く出会いましたが、まるでピンと来ない公演も多く、作品から「分かる人には分かる、知識や教養があれば理解できる」という無言の圧力を感じていました。遠く離れた異国の上演を、望遠鏡を覗き込みながら観劇する気分で、自分には海外戯曲を楽しむ資格がないのかなぁ…と考えたり。

そんな中、同僚の勧めもあり、この作品を観に行きました。STスポットは、今でもたまに道順を迷うほどなので、この当時は更に迷ったに違いありません。何を血迷ったか、横浜駅から地下街経由で行こうとした時など、ほとんど勘のみで出口を定め、地上へ出る階段を上りました(そしてほとんど間違えた)。

中野成樹+フランケンズ『暖かい氷河期』2006/9/8〜18◎STスポット

さて、ここから作品紹介に入る訳ですが、タイトル通り「すげー好き!!」だけ覚えていて、それ以外の記憶が曖昧です(スミマセン)。もし間違った記述があればご指摘下さい。

原作はイタリアの劇作家、カルロ・ゴルドーニの『二人の主人を一度にもつと』。喜劇作家としての評価が高く、今作も群衆喜劇だったと記憶しています。書かれたのは1745年。今から270年以上昔です。

18世紀に書かれたイタリア戯曲を、その歴史や文化背景などを活かしつつ、21世紀の横浜で上演しようとしたら、それは様々なアプローチが求められます。敢えて、いやむしろ? 極力忠実に再現という考え方もアリでしょうし、大胆なアレンジ力が必要という考え方もアリでしょう。

このカンパニーは「誤意訳(ごいやく)」というアプローチを掲げ、翻訳劇に挑んでいきます。今作で初めてナカフラの誤意訳に触れた僕は、その底なし沼のような魅力に膝くらいまで浸かりました。口当たりが良く、でも程良い弾力もあり、ユーモアもあり、上品な風刺も効き、日本人にも伝わり易くて面白い。「こんな翻訳劇があったのか!?」とびっくりしました。一言で言えば「ハイセンス」。センスの塊のようなカンパニーだと。

四角いボックス型のSTスポットを白いゴムバンドのような紐状のモノで被い、そこから俳優が飛び出してくる、ある種見世物小屋のようなワクワク感。時代背景を意識しつつ、日本的なワンポイントも加えた衣裳や小道具。そして、ここの肝心な記憶が曖昧なのですが…、ラストはめちゃくちゃ爽快感の伴う終わり方だったと思います。とにかくラストシーンが良かった!という記憶。etc…。

出演者でありカンパニーメンバーの野島真理さんが、男装の麗人役として登場する際、その「リボンの騎士」感がすごかった。よく通る澄んだ声と圧倒的な滑舌で台詞を喋った時、驚異的な跳躍力でイタリアから日本まで一気に跳んだ! と思いました。正に漫画のような超人的な存在感で、舞台俳優に魅せられるとはこういうことなんだなぁ…としみじみ感じました。

この作品の後、僕はナカフラ作品を意識的にチェックするようになり、このカンパニーの虜になります。ナカフラは誤意訳のみに留まらず、カンパニー内で複数の実験的思考と多彩なアプローチを掲げて活動しており、故に、ナカフラ作品で思い出深いものは『暖かい氷河期』以外にも沢山あるのですが、今作は(何度も書いて申し訳ないけれど)「すげー好き!!」だけ覚えている、僕の記念碑的な一作です。

褒め言葉として書いています。そのように捉えて頂けると嬉しいです。


【追記】YouTubeにカンパニー紹介動画があったので、こちらに貼っておきます。『暖かい氷河期』のワンシーンもあり(←サムネ画像が正にそれです。嬉しい)。余談ですが、この動画を最後まで視聴し、ナカフラからの「決意表明」のようなメッセージに触れ、思わず涙ぐんでしまいました。あくまで僕の個人的琴線なのですが、やはり僕は、ナカフラのことを全面的に信頼しています。あー、やっぱすげー好き!!!!


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