インドネシア漫画出版事情(後半)
こんにちは。ネット書店でバイヤーやったり、出版社で漫画とかラノベを海外に売る様な仕事をした後、出版系のスタートアップを名古屋でやってる、DouDoujinの水谷と申します。
先週に引き続き、インドネシア出版事情を書いていきます。前編は日本人から見てみると、色々と世紀末なインドネシア出版事情が書いてあった訳ですが後編は企業の取り組みや、私の考える可能性の話を書いて行こうと思います。
集英社の取り組み
日本で作った面白い漫画をアニメ化して現地で認知度を高めた上で、現地で一番販売力がある出版社に、翻訳と販売する権利許諾を行い、印税を貰うという、日本の漫画出版社の海外展開として、昔からある一番基本となる王道の戦略です。
上記の様にリアル書店で集英社作品が浸透している段階で現地のイベントにも出展しています。他の企業と違う点は作品力はもちろんそうなのですが、海外向けのデジタルの漫画アプリ「Manga Plus」を広めている事です。
オフライン展開は現地の提携先に運用が依存されますが、デジタル展開は自社でハンドリングして現地のイベントにも出展されておりました。実は以下の投稿の観客の一人に私もいたり…
現地クリエイターを支援した取り組み
うまくいった事例だけ載せても面白くないので、逆にうまくいかなかった事例を載せて行こうと思います。インドネシアの漫画家の方の投稿で、「Shounen Fight」という取り組みの支援を集英社が行なっていたと書かれていたので調べてみました。
すると日本人の漫画編集者が2015年あたりから3年間、現地編集者とタッグを組み、インドネシアの作品を集めた漫画雑誌を販売されていたそうです。
残念ながら2017年辺りで資金が尽きたみたいで、どこまで出版社として支援されたかは不明ですが、日本人の漫画編集者がほぼ単身で現地の漫画編集者とタッグを組み、漫画制作のノウハウを伝授する教室を開いたり、現地の漫画家を日本の出版社とマッチングさせたり等を行っていたと推測します。
多分、この左の方が日本側の編集者。元々、KADOKAWAや主婦と生活社で漫画編集者をされていたそうです。右はインドネシア漫画家の一人。
インドネシアで漫画のワークショップが開かれたり、編集者と漫画家との打ち合わせであったり、画力的に申し分ない漫画も生まれていた様でした。
最終的にVol.6まで刊行され、現地のイベント、Gramediaの書店リアル書店、Facebookを通じたオンライン販売が行われていた様です。Gramediaにて児童向けの棚に配置されていた事がもったいなく思えた事と、当時はShopeeやTokopedia等のECサイトがなかったのか、Facebookを無理やり使ってたのが印象的でした。
収益源は紙の雑誌販売の売上、そして漫画家向けのセミナーも200K(約2000円)とありましたが、多分セミナーは運営費の回収程度な印象でした。紙雑誌は1冊あたり30K〜50K(約300円~500円)で変動させており、シャツ等とのセット販売が行われておりました。Gramediaは印税が高く店頭で買うと高いので、Facebook経由で直接買った方が安いと誘導する投稿を見かけた事は印象的でした。
最後の1年は豪華な所でコンテストを開いたり、会議されてると思っていたら、DBS(シンガポール開発銀行)という東南アジアトップクラスの銀行によるBIGプロジェクト(Bring Indonesia to Global)にてクリエイティブ産業向けに開かれたコンテストに参加して優勝されてました。優勝者としてインドネシア・クリエイティブ・エコノミー庁とのビジネス・ネットワーキング、投資家と会う機会、総額4億ルピア以上の現金が与えられたそうです。優勝の1.5億ルピア(約150万円)のボードを持ってますね。
おそらく、そこで得た優勝賞金を元に、インドネシア漫画の日本展開を計画し、インドネシアの漫画家の方々を日本にお連れして、北条司先生(現:コアミックス取締役/シティーハンターの作者:発行元:集英社)による漫画のレクチャーや、コアミックスの社長様との会議が実現したみたいです。(シティーハンターの作者様のレクチャーの件で集英社が支援していると現地の方が誤解されたのかと推測しました)
残念ながら、インドネシア漫画の日本展開は実現せず、そこで資金が尽きたようです。2015年〜2017年という漫画の収益が紙でしか無かった時代、当時できる事を全部やって、万策尽きた印象でした。
今は「AI」を恐れていますが、当時の「デジタル」への恐れに関しての投稿を見かけました。その恐れていた「デジタル」と組み合わせる事でうまくいくと想像する事は、非現実的な理想論だったのでしょう。
尚、日本の漫画出版社の社長にまで会っても、インドネシア漫画を日本で出版するという判断が為されなかったのは、あくまで推測ですが、画力は十分にあった上で、インドネシアの方の心が日本に比べて若かった事では無いかと考えています。私がインドネシアの漫画を読んだ時、一昔前のジャンプみたいな純粋さがあると感じました。もしかしたら、あの当時から少し歳を経た、今のインドネシア漫画家なら、日本でも受け入れられる漫画を生み出せるんじゃ無いかと考えたりもしています。
最近の日経新聞で一昔前のおぼっちゃまくんが何故かインドで流行っているというのを見ましたが、作品がその国で受け入れられるには読者の精神的成長度に一致している必要があるという画力以外のハードルが明確になったのが、最後にインドネシア人漫画を連れ、日本を訪問したタイミングだったのかもしれません。
ちなみに、この過去の取り組みを知らなければ、私もこのルートに行っていたかもしれないと、まとめながら震えるような感覚がありました。
KADOKAWAの取り組み
さて、前半から独占的覇王として扱ったり、Shonen Fightの漫画雑誌を児童棚に置いた事を紹介したり、印税が高かったりと、散々ネタにしていたGramediaなのですが、2024年1月にKADOKAWAと「PT Phoenix Gramedia Indonesia」というジョイントベンチャーを立ち上げました。この件を深掘ってみるとGramediaもまた困ってる事が見えてきました。
こちらのジョイントベンチャーは「KADOKAWA」が過半数の51%を保有し、Kompas Gramediaグループの出版・小売部門統括会社である「PT Gramedia Asri Media」が49%を保有しており、KADOKAWA側が主導権を握れる株構成です。偶然インドネシアのイベントで会社設立の担当者と話す事ができたのですが、KADOKAWA側の提案開始から1年で締結に至り、Gramediaとしては異例の速さで会社が設立したみたいです。株式比率の51%の交渉もすんなりいったとの事でした。
つまり、このジョイントベンチャーを作る事は、KADOKAWA側に主導権を渡してでも、Gramedia側に明確にメリットがあるという事です。上記の日本語記事の事業内容には以下の様に書かれていました。
KADOKAWAの作品もGramediaに既に沢山並んでいるので、この記事だけではGramedia側がそこまで前のめりになる理由は見えてきませんね。次に外国人向けオタクニュース、Anime News Networkの記事を見てみましょう。
日本記事の事業内容に書かれていない一言がありますね。最後にインドネシア人の記者が書いた記事を書いてみましょう。
日本記事、Gramedia側のデジタルの熱い要望、めちゃ隠されとるやん…😂
これ裏で思いっきり作ってそうですね…
隠されたデジタルの話はさておき、今のKADOKAWAのジョイントベンチャーの取り組みをご紹介しましょう。今年5月に開催されたAnime Festival Asia Indonesiaにて不自然な配置を見つけました。Gramediaのブースのすぐ隣に『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』をガン押ししている謎な銀行が…(笑)
これ絶対、なんかKADOKAWA関わってるだろって思い、話かけてみると案の上でした。ブースにある青い「PX」マークが新しくできたジョイントベンチャーのロゴで、このDanamon銀行がジョイントベンチャーを作る時に携わったのだとか。老舗銀行で若い人の口座開設に苦戦されており、「銀行口座開設で漫画1冊プレゼント」みたいな企画を実施してみた所、若い人がどんどん口座を開設してくれると、銀行側は今回のイベント出展は驚きと共に大変好評だったそうです。
個人クリエイター向けに仕込むDouDoujin
集英社やKADOKAWAが、既に保有しているIP(Intelectual Property:知的財産)をいかにインドネシアに展開するかを考える一方、弊社はShonen Fightの様にIPを作る所から始めないといけません。そんな時、若い人口が多い、日本語学習者も多い、そしてクリエイター志望が多い、インドネシアは絶好のポイントだと考えました。統計的情報は以下のNoteにまとめてあります。
また、ShonenFightの様な潰えた取り組みは、KOLONI PROJECT等、他にも幾つかあった様で、私がインドネシアに初めて訪問した時に「なんで漫画かけてるの!?」って、画力が伴った漫画家が何故かインドネシアにいた答え合わせをしている気分になりました。
潰えた取り組みとして、Shonen Fightを参考しますが、あのビジネスの問題は、デジタル時代が到来しておらず、漫画そのものから収益を上げるビジネスしか存在しえなかった事は大きな要因と感じます。現在の日本の出版モデルを参考にすると、ONEPIECE等の人気作品の収益は、漫画そのものではなく、その周辺から出ています。私はその周辺作品から稼ぐモデルを「デジタル上」で「個人クリエイター同士」でも起こせるのでは無いかと考えております。特にAIで個人クリエイターが「アニメ」や「ゲーム」を作れる様になってきた時代においては。
例えば、漫画読み放題サービスみたいに見えて、実は翻訳者や、声優や、Vtuberや、二次創作漫画家みたいな、個人の派生作品クリエイターとなって原作を使った作品を合法的にマネタイズできるサービスとか(チラッ…)
例えば、原作者が作品登録時に、No/ Off機能だけで、二次利用ガイドラインをシンボルマークで表現できて、それがシリーズごとに並ぶので、著作権侵害の心配なく、都度原作者への確認なく、言語の壁を超えて派生作品を作れたり(チラッ…)
例えば、日本の漫画にインドネシアのVtuberとかが自由に声を吹き込む事ができるUI/UXがあって、無料か有料販売か選べて、有料販売時に原作者にお金が入ったり(チラッ…)
そんな感じの、周辺クリエイターが国を超えて、勝手に販促とか販売をしてくれて、原作者はお金がチャリンチャリン入ってくるみたいな仕組みがあったら素敵だなぁって考えてます。
今後のまとめ記事
初めて事業を紹介してみました。海外に興味がある、未来に向けて何かを始めておきたいという方は、是非DouDouDoujinのXアカウントのフォローを🙏また、作品を出しても良いという漫画家の方は下記の雑誌掲載プランにご協力を…🙇♂️(少しお金払ってでも海外に挑戦したいという意欲ある漫画家を探しているんです)
10/6(日):インドネシア漫画出版事情(後半)
2025/4月頃(来年予定):インドネシアVtuber事情
掲載作品を募集しています
海外展開に興味があって、最初の一歩目を探している漫画家向け。
またまた今年の11月もインドネシアのイベントに出展し、許諾を頂いた漫画を英訳と、今回はインドネシア語翻訳も行い、雑誌にまとめてPRしてこようとしています。この記事を読んで、インドネシアに興味を持ち、自分の作品も掲載してみたいという方がおりましたら、コチラのStep1の掲載枠の確保にご入力ください。(所要時間1分)
(枠が埋まった場合、上記は締め切りましたという表記に切り替わります)
前回のイベントにご一緒頂いた漫画家の方(今回は根田様に加え、2名の漫画家の方がインドネシア現地参加)から、インドネシアは今が正にタイミングなので、お金を払ってでも掲載に価値を感じる方はいるはずという事で、雑誌掲載の募集を募りたいと思います。(掲載枠埋まり次第終了)
4P掲載なら5000円、8P掲載なら1万円、12P掲載なら1.5万円で、翻訳、雑誌掲載、現地での販売、完成品の現物送付をさせて頂きます。翻訳やVtuber事務所との調整の関係で、10/14 23:59(月)を期限とさせてください。もちろん書き下ろしでなくて、既存のSNS等で公開済みの作品で全く問題ございません。
質問はお気軽に、DouDouDoujinのXアカウントかコメントにDMください。
海外雑誌掲載プランの参考情報
出展するインドネシアのイベント詳細記事はこちら💁
前々回(2023年12月)のイベントでの成果共有はこちら💁
前回(2024年5月)の出展成果は新聞で取り上げて頂きました💁