お太鼓の壁、手首の壁

習いはじめはお太鼓が難しかった。いや、今も相変わらず難しい。
雑誌やテレビではもちろん、街角で座布団みたいに正方形のお太鼓に締めてらっしゃる方を見かけると、トホホと隠れたくなる。
私が締めるお太鼓は、上はカーブというよりはボコボコ、下線も小さめでおばあさんみたいだ。
まあ普段着なんだから、そして実際おばあさんに近いんだから、外では羽織を、社内ではかっぽう着を着ているから難が目立たないから、と自分を慰めているが、いつかピシッと正方形のお太鼓に締められるのだろうか。
祖母は10分くらいで着ていた気がするし、着付けの先生は「どんなにゆっくり着ても20分」とおっしゃるから、きものというのはそれくらいできちんと着られるのだろう。
衣類なのだから当たり前か。

明日は失敗できないという前日はさすがに帯の予習をするのだが、洋装と和装だと胴回りが全然違うから、帯は勝手がわかりにくい。
もともとチビなうえ、洋装で予習すると帯が余って余って、参考にならない。
先生のYouTube動画を何度も何度も再生して、真似をする。
席でもトイレでも、帯枕をひっくり返して帯の上に乗っける、しぐさを繰り返した。
夢でも見た。
※習い始めた当時はお太鼓にポイント柄(絵)のない全部が同じ柄の帯でこの体たらくだった。今はお太鼓のポイント柄がうまく出なくて、やっぱり前日に予習をしている。

祖母のきもので練習を始めたのだが、チビなのでほぼ直さず着られる、とはいえ、裄は結構短いなと思うものが多かった。
きものはよく「斜め45度に腕を伸ばしたとき手首のグリグリが隠れるくらい」と聞くが、私は完全にニュウと出ていた。
しかし先生は「キャラで押し切りましょう!」とおっしゃった。
ほっとした。
ほっとしたが、きものを着るだけで、多少はちゃんとして見えるんじゃないかと期待していたから、多少がっかりもした。
しかし、呉服屋さんも「動物さんはそれでいいんです」と許してくれたので、そのまま着て、着ないものから裄を出し丈を出し、直すことにした。限界までミリ単位で裄出しはしている。
呉服屋さんの専務(旦那さん)が「そりゃ、常識で考えるとおかしいのかもしれないけど、ふしぎとしっくりくるんだ。動物さんはきものが好きだけど、きものも動物さんが好きなんだよ」と励ましてくださった言葉が今に至る支えになっている。

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