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83 - 2セント、希望、疑いの目

ベッドサイドのテーブルにある金属製の皿には、個包装された耳栓――ワックス耳栓あり、フォームタイプあり、シリコン製あり――が山盛りになっている。それはホテルが引き起こす騒音問題のために、ホテルによって与えられる大量の解決策である。言うまでもなく、ただ音楽を止めればいいものを、そうはせず、代わりに小さなテクノロジーを提供する。それなら音楽を止めずにすむからだ。...原因に対処せず、私たちはいつも何かを発明して問題を帳消しにしようとする。(『セックスロボットと人造肉』)

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Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): これあげる。さっき出てきたんだけど。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): 小さいコイン。

C: ドルとユーロのコイン。ちょこちょこ出てきた。滅びゆく世界の……。

JC: そうね。滅びゆく世界。かわいい。底なしのブラックホールみたいな2セント。

C: これくらいの大きさのブラックホールが出来るのに地球一個分いると言うよね。

JC: まあそうなんだろうな。質量的にでしょう。相当……。

C: ふざけた話だけど。はははは!

JC: 相当濃縮してる。仮想の世界では。

C: しかも全部の情報が保存されてるんでしょう?

JC: らしいよ。

C: ははは。すごいじゃん。

JC: すごいよね。アカシックレコード。

C: 永遠の命は随所でもう実現されてる。なにも無理に目指さなくても。

JC: そうそう。でも発電してくれないと意味がないらしいから。

C: それは……苦い話題だけど。

JC: 苦い、苦い。近づいてるなという実感。トンデモ論じゃなくなってきた。けっこう諦め……リアリティ増してるな。こんな話をする機会も、相当レアなんだと分かってきた。

C: うん。

JC: けっこうね、守られてたんだと思う。これまでいわゆる陰謀論みたいな事を平気で言ってても、面白おかしくみんなで飲んだりしてたわけでさ。一定数理解を得られるというか、生活出来てた。途端にそういうのが極端な異端になってしまうと追随者もいないし。

C: どれくらいマイノリティなのかと感じる出来事が最近二例あったんだけど。

JC: うん。

C: そのうちの一つを今日は話すけど。80年代後半のエイズ真っ盛りの頃のゲイパーティー……ぐらい。

JC: ははははは!

C: 『フィラデルフィア』(ジョナサン・デミ監督、1993年)という映画を観たんだよね。ストーリーは……あるエリート弁護士が職場では同性愛を隠してて、額の斑点でエイズなのを察した会社幹部が別の理由をでっち上げてクビを切るんだけど。

JC: うん。

C: それは「不当解雇だ」って、黒人弁護士と組んで、一審の勝利を勝ち取ってから死ぬという。マイノリティ同士の連帯、正義は勝つ、みたいな。まあ内容は割とオーソドックスな話。で……劇中でゲイパーティーを開くシーンがあるのね。

JC: ふんふん。

C: その中での異端は弁護士夫婦の方で、「あらこんにちは」「どなたでしたか?」「モナリザよ」みたいな。ノリに戸惑ってるわけ。その……戸惑われる側。

JC: ははは。なるほどね。

C: ゲイパーティー開けるくらいの数いるでしょう、というのが今の希望。

JC: あぁ……なるほど。

C: ついつい希望を見ちゃう。

JC: そういう希望はあまり見いだせなくなってきた。

C: 現実にはそうなんだけどね。当然参加する集まりもまるでないし。

JC: 自分の希望があるとしたら、「全体が少しずつ」だね。

C: 全体が少しずつ……をその出来事に照らし合わすとさ、

JC: うん。

C: 社会のエイズに対する理解が増して、差別はいけない、多様性尊重だ、エイズはもう死ぬ病気じゃない、と。そういうのが35年後の今の現状だとしたら、希望と言えば希望かもしれないけど。

JC: ふん。

C: われわれみたいな「じゃあ”AIDS”って何?」と考えてる人達にとったら、それはかなり苦い話だなと思った。

JC: そうね。

C: 綺麗事や美談で終われない。「根っこ」が間違ってるから。

JC: そうだよ。

C: みんながエイズの前提を受け入れちゃってる、という所ね。今回のコロナの事と全く一緒で……。

JC: その程度の理解だったからこんな事になってるわけだからね。

C: 言ってしまえばリハーサルのような。

JC: まあまあ、実験だからね。

C: 苦いなぁと……。だけどそれを言っちゃあお終いよ、というのもあるから。エイズを疑うと、当然わたしの人間性が疑われる。

JC: あぁ~。

C: この罠にかかると万事がそうだけど。論点ずらし偽善的な……今のいわゆる「リベラル」とされているもののあり方って。その前提を疑っちゃうと、差別主義者としての扱いを受けるようにハナから構造を持ってる。それってリベラルと別物だよ。ただのイデオロギー。

JC: うん。

C: こういう……ある意味では人間愛に溢れてると言える映画も、疑うべき前提を確定させる「アイテム」なわけでしょう? そんな見方したくないよ、となる時もあるけど。

JC: ふふふ。

C: それなりに泣けるんだよ。理解ある家族友人に看取られながら死んでいくストーリーが泣けないわけがないし、曲もいいし。だけどそれが確定させちゃう部分、社会の合意を作ってしまう部分がものすごく怖いなぁと。「しまう」っていうか、確信的だけどね。

JC: なるほどね。彼らの意図してる部分を含んでると……そこまで気付けとは、もう無理だなという判断ですよ、自分の中ではね。全部がそういう希望がちょっとずつあるんだけど。

C: うん。

JC: 気付くきっかけはどこにでもあるけど、その先には絶対に踏み込めないし、根底までは行かない。だから、手前に人がいっぱいたまっているというのが、統治する側にとっては一番理想的だよね。

C: 手前に人が?

JC: 「本質の前」にね。直前で。方々散ってたら統治できないよね。集めて集めて……まとめるにはなんでもいいんだよ。

C: うぅん。

JC: もう戻れない所まで来てるねって。無理だって、ということ。実際夜に出かけて……一杯飲もうと思っても、そこにいる人おかしいからね。「ロシアやばい、中国やばい、南極の氷やばい」揺るぎない8割が完璧に作られてるから。

C: うぅん……。

JC: その方向をちょんといじるだけで、簡単に戦争になりますよ。

C: それはもう見事と言うほかないね。

JC: 日本はすごい!

つづく

 

2022年10月20日と27日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
#doubles_studio_talk でトーク部分を一覧表示出来ます。

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