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第1回|商売人やったら商売でなんとかせなあかんやろ
タケ
1989年7月11日生まれ。立命館大学「dig up treasure (dut)」出身。在学中はチームEO-CENCEに所属、Double Dutch Delight Japan 2011では見事優勝を果たしている。現在は、京都有数の観光地でもある嵐山にて、うどん専門店「自家製麺 新渡月」を営む。
(※2018年4月6日の記事です)
T⇒タケ
I⇒イケポン
嵐山の課題として、夜営業している店があまりにも少ない
I:本日はよろしくお願いいたします。まず今のお仕事の1日の流れを教えてください。
T:はい。僕はうどん屋なんですけど、1日の流れはだいたいこんな感じです。
7:00~ 粉をこねる
8:00~ 出汁をとる、ご飯を炊く、食材の仕込み
10:00~ うどんの生地をプレス
11:00~ 従業員の賄いを作ってご飯を食べる
12:00~ 昼営業開始
15:00~ 昼営業終了
夜営業に向けた仕込み
プレスしていた生地を成形して寝かせる(翌日昼営業分)
17:00~ 夜営業開始
21:00~ 夜営業終了、片付け、精算、戸締り
I:本当に丸一日だね。
T:そうやね。昼営業だけやったらもっと早く帰れるんやけど。嵐山の課題として、夜営業している店があまりにも少ないってことがあって。せっかく来てくれる観光客が、夜ご飯食べられるところないやんってちょくちょく聞くんよね。
“せっかく来てくれる観光客が、夜ご飯食べられるところないやんってちょくちょく聞くんよね。”
「商売人やったら商売でなんとかせなあかんやろ」って気持ちになって
I:「新渡月」も最初は昼営業だけだったよね。
T:そうそう。昼だけでも商売は成り立つんやけど。ちょうど店の改装をしてる時かな。向かい側がローソンなんやけど、夜20時くらいに、アジア系の観光客の方が、小さい子供さんいるのに、営業してる店がないからって道端で座ってコンビニ弁当食べてはって。
それを見て「うわー」って胸が詰まる思いがしたんよね。「せっかく来てくれたのにあんまりやろ嵐山」って。「商売人やったら商売でなんとかせなあかんやろ」って気持ちになって、夜営業をはじめたね。
嵐山で夜営業は当たらへんってのが定石やったから、「多分あかんやろうけどやってみよし」って感じの目線で見られるわけやけど。それでも誰かがやらなあかんし、やってみたら売り上げも見合ったって感じやね。
I:仕事量はかなり変わってくるよね。
T:もう全然ちゃうなー。もちろん人件費もかかってくるし。昼だけ営業してたほうがよほど楽って感じ(笑)。でも、夜営業するお店が増えていったら嵐山ももっと発展していくんちゃうかなって。
“「多分あかんやろうけどやってみよし」って感じの目線で見られるわけやけど。それでも誰かがやらなあかんし、やってみたら売り上げも見合ったって感じやね。”
I:夜はお店が全部閉まってしまう?
T:閉まってまうなー。19時に開いてるのがメインストリートではうちだけって感じかな。JR嵯峨嵐山駅の手前にやってるお店も2店舗しかないから。あまりにも寂しい。
I:うんうん。
T:素泊まりのお客さんも結構多いし、そういうお客さんからしたらなんで夜お店が開いてへんねんって感じよな。
I:嵐山の夜のお店がそんなに開いてないとは。
T:だから、まあ1日うどん作って出しての繰り返しの毎日です。
どんなうどんを作りたいかによって、作り方がかなり変わってくる
I:1日の流れの中で、朝作ってた生地は次の日の昼間に出るってことだよね?
T:そうそう。熟成させて。うちは、プレスする前に2時間寝かして、プレスしてから4時間くらい寝かせてる。もっと温度下げて10時間くらい寝かさはるお店もあるし、麺切ってからすぐ出さはるところもある。うちは麺切ってからもう1回熟成させるんやけど。
I:麺の寝かせ方によってだいぶ麺の状態は変わるものなの?
T:全然変わる。どんなうどんを作りたいかによって、作り方がかなり変わってくるね。うちのスタイルにあってるのはそのやり方かなって感じ。
I:他のお店の麺を食べて、どう作られてるかわかるものなんかな?
T:細かいところは分からん部分もあるけど大体分かる。よくあるチェーン店のようにガッチガチのうどんやったら、わりと短時間で作れるかな。柔らかめだけど、適度にコシがある感じの方が難しいかなあ。
I:勉強になります(笑)。
T:人生であんま役に立たへん情報やけど(笑)。
I:仕事をする中で大事にしてることはどんなことだろう?
T:まずは味がブレないようにすることかな。
I:いつ来ても同じ味であること。
T:そうそう。それがすごく難しくて。季節によって粉の状態も変わるし、出汁でいうと鰹節や昆布の状態も変わるから。どうしても小さいブレが出てくるから、そのブレを誰がやっても許容範囲内に収められる努力はしてるかな。
“どうしても小さいブレが出てくるから、そのブレを誰がやっても許容範囲内に収められる努力はしてるかな。”
I:今基本的にはタケが調理を?
T:麺は完全におれが作ってるね。出汁はおれが取ったり、オカンが取ったりかな。食材を切ったり、その他の仕込みはパートさんにやってもらうって感じ。
I:麺はタケなんだね。
T:今はそうなってるね。今後はそこを人に任せていって自分の時間を作って、次にやることを考えていければいいかなと。
I:そうなんだ。僕も家の近所に週一で通ってるスパイスカレー屋さんがあるんよ。だいたい同じカレーを注文するんやけど、たしかに日によって結構味が違うな。同じ味ってめちゃくちゃ難しいんだね。
T:難しいなー。
I:マニュアル的な基礎の部分と、スタッフ自身の知恵の部分、両方必要
食べる側のコンディションや体調も関係するよね。
T:そやなー。鍋の大きさによっても変わるし。
I:素材が季節によって変わるっていうのは、水分量とかの関係なのかな。
T:粉は水分量やな。粉に対して何%の水を入れるのかっていう計算はしてるんやけど、そもそも粉が含んでる水の量って季節によって違うから、ある程度は自分の目で見て調整しないといけないね。
I:その調整は経験で?
T:経験だね。多すぎても少なすぎてもあかん。
I:じゃあ逆にレシピを決めすぎてしまっても良くないんだね。
T:そう、それだと細かい対応ができひんな。
I:そういった調整が経験則でできるようになるのにどれくれいかかるものなの?
T:季節ごとの変化に対応しないといけないから、全部の季節を経験することを考えると、少なくとも1年はかかるよな。おれは自分で考えながらやってきたから結構時間がかかったけど。
I:自分の手探りでやっていくか、1から10まで教えてもらうかでそのスピードは変わってくるよね。けど手探りの中の寄り道があったからこそ、冴える感覚も絶対にあるよね。
T:うん。もし従業員に教えるなら、探らせる余地は残しておきたいな。
I:従業員が自ら探っていく余地を。
“臨機応変に対応ができるように、自分で考えてやれよっていう部分を残す。ガチガチにマニュアルを作らないような感じでやってるね。”
T:そうそう。できるだけ臨機応変に対応ができるように、自分で考えてやれよっていう部分を残す。ガチガチにマニュアルを作らないような感じでやってるね。接客もそうだし。
I:マニュアル的な基礎の部分と、スタッフ自身の知恵の部分、両方必要だもんね。しかもお店をやっていたら、人件費もかかるわけだから、育つまでずっと待つわけにはいかないもんね。
T:そうやな。及第点まではマニュアルとして教え込んで、そこから先のクオリティを出す部分に、自ら考える余地を残すという感じかな。
(第2回へつづく)
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