サンデーGXの戦闘力バトルの漫画「貧民、聖櫃、大富豪」が面白い
高橋慶一郎さんの『貧民 聖櫃 大富豪』
ストーリーとかこの作家さんが他に何を描いていたとかは検索していただくとして、この漫画が面白い。6巻になって面白さを言語化しようと思ったのでやろう。
戦闘力バトルと能力バトル
娯楽作品におけるバトルというものを上記のように分けてみる。「戦闘力バトル」とはあるベクトルの強弱だけで戦いの決着がつくもので、そのベクトルが強ければこちらの攻撃は通るし、相手の攻撃は痛くない。
ドラゴンボールでクリリンが「きたねえ花火だ」したあと、悟空が経験した超サイヤ人への変化は質的なものじゃなかった。単純に戦闘力という数値がフリーザを大きく上回ることで、フリーザの攻撃は一切が大きく減殺され、悟空の攻撃は大ダメージを与えるようになった。
「能力バトル」ではさまざまなベクトルが存在していて、同じベクトルでの勝負を挑むならばそのどちらが優れているかで優劣が決まるけれど、違うベクトルをもってきた場合はベクトル自体の質によって勝敗が変わる。幽遊白書で幽助と戸愚呂弟の勝負は同じベクトルの勝負だったけれど、その後出てきた相手の動きを止めちゃう高校生(うろ覚え)は鼻と口を塞ぐだけで幽助を殺せる状況に追い詰めた。
で、俺の見ていた漫画の歴史の中では、戦闘力バトルはドラゴンボールとかで読者を盛り上げていて、ジョジョのスタンドという概念が出てきた時に能力バトルという考え方に触れて唸った。まあ、あんまり漫画を読んできたわけではないので、他の人には他の経験があるでしょう。
貧民、聖櫃、大富豪は戦闘力バトル
今回面白いと紹介したいこの漫画はガチガチの戦闘力バトルだ。指揮する「あるじ」と殴り合う「御使い」という役割分担があり、あるじが支援コマンドを選ぶタイミングとか戦いをするかしないかとかの判断はあるのだけど、いざ殴り合いになったら戦闘力が強いほうが勝つシステムである。すると戦闘力の強弱によって勝敗は常に固定されてしまう。だから戦いの結果に意外性が生まれないという危険がある。
でもこの漫画はうまくそれを回避している。どうやってか。
戦闘力を「現実の資産額」とした。
金は単なる力。いかに金を増やそう
あるじが御使いを支援(攻撃補助、防御補助、回復、逃亡)するためにはカードを買わなければならなくて、そのためには現実のお金が必要。カードを使うためにも効果を増強するためにも現実のお金が必要。そのために1億だの2億だのというお金をじゃぶじゃぶと使ってお互いの生命力(これも現実のお金)を削り合っていく。お金は銀行口座と直結していて、使えばリアルタイムでお金が減っていく。信用取引は認められないので現金として口座にある額がなくなったらもうなんの行動もできない。
戦いに参加しているメンバーは貧乏な母子家庭の女子高生からタックスヘブンの金融国家の女王までいて、種銭だと数百万円から兆超えまでいる。この金額で戦闘力バトルをやるのならば、兆超えの女王がお金を湯水のようにばらまいてすりつぶせばいいし、女王もそうするつもりでいた。
なので他の参加者は「自分の資産を増やすこと」「相手の資産を減らすこと」に活路を見いださなければならない。それを現代日本の経済という仕組みの中で行われなければならない。そのためにいろんな登場人物が繰り出す手練手管が面白い。いちばん不利かなーと思ってたインテリヤクザとヤクザのコンビが資産額トップの女王を脅かしたりもする。現代で実際に起きるかも知れない、説得力のありそうな方法で。
読もう
現在6巻まで。なんとなくざっと読んでもいいけど、きちんと時系列が場面の冒頭に記されるので、参加するあるじと御使いのペアごとにその時点で持ってる情報を考えながら読むとこれまた面白い。漫画としても面白い。おすすめです。