人狼BBSこじらせがグノーシアに救われた顛末

 この5月連休のうち、後半の5日間の休みはずっと一つのゲームをやっていた。

 グノーシアという正体隠匿系ゲームだ。ループを繰り返す主人公が、一週間ほどの「人狼ゲーム」を何度も何度もループしつつ、情報を集めてそのループ状態からの脱却を目指す。情報を集めるにはとにかく人狼ゲームを繰り返すしかなく、通常エンドにたどりつくまでなんと133戦。真エンドにたどり着くまで135戦かかった。1戦平均10分弱なので、1350分やってたことになる。

 とても面白くて、SQがかわいく、セツがもっともっとかわいく、ステラを連れて帰りたいのだけれどそういうのは措いておいて、このゲームをすることによって私が(本人も知らず)罹っていた病である「人狼BBSこじらせ」から快癒したということについて書きたいと思う。

 簡単に人狼ゲームと人狼BBSとを説明したい。
 ・人狼ゲームとは、集団にまぎれこみ一人ずつ村人を食い殺していく狼に過半数を占められる前に、投票によって狼を排除していくゲームである。プレイヤーは村人か狼のどちらかになり、騙し見抜いて勝利をめざす。
 ・人狼BBSとは、その人狼ゲームを掲示板(BBS)機能を使用することで遠隔かつ長期間でのプレイが可能になったゲームだ。
 世の中には二種類の人間がいる。人狼BBSで人狼デビューを果たした者と、そうでない者と。私は前者で、もちろんそれ自体は悪いことではないのだろうが、私に取ってはよい影響とはならなかった。

 人狼BBSではない普通の人狼ゲームとはどういうものか?
 ・紛れ込んだ狼は、とっさに整合性のある嘘をつかなければならない。
 ・狼に食われる村人は、自分が食われる前に狼の嘘を見抜かなければならない。
 短い時間、じっくり考える余裕がない状況、普通の人間はそんなことをうまくやってのけられない。なので普通の人狼ゲームでは疑う根拠はふわっとしたものになるし、疑われれば情にうったえることが最適解となる場合もある。「なんとなく憎めない」「なんとなく嘘つかなそう」は最強なのだ。
 が、人狼BBSは全く違う。
 ネット越しなので雰囲気や表情は伝わらない。
  発言する前にいくらでも推敲できる。
 そして発言はずっと残り、常に遡ることができる。
 同じ人狼ゲームを名乗りながら、そこに求められるスキルは正反対と言ってもいいくらい違うのだ。
 さて求められるスキルが全く違うのに、人狼BBSから人狼を学んだ人間が対人人狼をやったらどうなったか。
 不満と物足りなさを感じた。人狼ゲームを見くびった、と言ってもいい。

 人狼ゲームは皆が率先して発言し、その発言の矛盾を検討し、嘘を検知することで勝利すると思い込んでいた人間が対人人狼をやったらどうなったか。
 とにかく疑われたくないから喋らない。疑うにも「なんとなく」「狼だったら怖そう」「毛皮のマフラーしてる」という理由がまかり通る状況が不満でしかなかった。これのどこに論理ゲームがあるのか。過去3回参加したが、たいていこんな不完全燃焼をいだいていた。そもそも似て非なる別のゲームなのに。それを教えてくれたのがグノーシアだった。

 グノーシアで自分と闘う他のプレイヤーは全員CPUなので、人間のような複雑なことを言ってきたりはしない。SQなんか
「ピタタピ(私のプレイヤー名)はキモいからグノーシア」
 とか平気でなすりつけてくる。ひどいね君ィ。かわいい。
 はじめの10周くらいまでは心無いSQの言葉に精神を削られつつ、登場人物が決まったセリフしか言わないつまらない人狼ゲームの出来損ないだと結論づけようとして、できなかった。決まったセリフしか言わないとしても、そのセリフが出てくるタイミングには背景があるのだと感じられ、何周もしていくうちにそれがわかったから。
 そして、自分が無知にも軽蔑していた対人人狼の疑う理由の浅さは、あれでいいのだとわかってきた。

 軽く、根拠のない疑いは、確信があって言ったものではない。
 それによる相手の反応を見るためのものだった。そして何よりも、誰かに疑いをかけた時、誰が同調して誰が反対するのか、それをあぶり出すためのものだった。敵を貫く魚雷ではなく、地形を探るソナーだった。それをまったくわかってなかった。
 軽い理由で疑うのも、情にすがってそれを避けるのも、魚雷としては不適切だけれどソナーとしては立派に効果を発揮する。過去3回の参戦において、私はそういうことを理解しない、人狼BBSの経験だけで経験者気分でいた困った奴だったのだなあと今更ながら恥じ入るばかりだ。

 ということで、反省したので誰か人狼誘ってくれませんかね。
 次はもっと楽しめると思うんだ。こんなご時世、対面でしゃべりあう人狼ゲームをやる機会なんて先の先のことだろうけどね。


 それはそれとして、グノーシアはとても面白いのでやってみるといい。通常エンドが明らかに真エンドを示唆していたから必死になって考えた。真エンドにたどり着くまでの30分は上半期でいちばん頭を使った30分だった。大概のゲームでは早々にあきらめてしまう方なのに。でもこのゲームは
「お前を絶対助けてみせる!」
「この丁寧なゲームなら、ヒントは全てもらっている。理不尽や運は介在しない。考えればたどり着ける」
 この二つがあったので考えに考えた。
 そして真エンドにたどり着き、うん、うん、そうだね。グノーシアは最高なのだ。

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